出口が見えないコロナ禍の中、ふさぎがちな心を奮い立たそうとしてか、前向きな言葉を見聞きすることが増えた気がする▼「明けない夜はない」もその一つ。シェークスピアの悲劇「マクベス」のせりふとされるが、異なる解釈もあるようだ▼原文を直訳すると「夜明けの来ない夜は長い」。悲嘆や苦悩の渦中にいる人にとっては、この邦訳のほうが胸に響くのではないか。その場かぎりの励ましや慰めは、傷ついた心に刃を立てかねない▼絶望の淵にいる人に寄り添う言葉を紹介するNHK「ラジオ深夜便」のコーナー「絶望名言」が注目されている。カフカ、ドストエフスキー、太宰治ら古今東西の文豪が紡いだ言葉から、生きるヒントを探しだす▼受け入れがたい現実に直面したときは、楽観的な言葉をかけられるよりも、「明けない夜もある、と言ってくれたほうが心に届きやすい」と解説役を務める頭木弘樹さんはいう。反響を受け、書籍化もされた▼世を覆う不条理の中で人はどう生きるべきか。「天災の中で最も教えられること、すなわち人間のなかには軽蔑すべきものよりも賛美すべきものが多くある」。長編小説「ペスト」でカミュは、絶望に慣れることは絶望そのものよりもさらに悪い、とつづった。夜明けが見えない今日、胸に刻みたい。