航空機事故が起きれば、原因を調査し対策を講じる。そうでないと、安心して乗れない。

 そんなたとえを、足利事件の冤罪(えんざい)を晴らした佐藤博史弁護士が書いている。

 冤罪と分かれば原因を調査し対策を講じる。無実の人の人生を台無しにしたのだから当然のはずだ。

 ところが、私たちの国ではそうなっていない。佐藤弁護士は、足利事件を刑事司法が抱える深刻な問題が表面化した「氷山の一角」ととらえている。

 西山美香さんが再審無罪となった湖東記念病院患者死亡事案。冤罪の過ちを繰り返す司法に対し、信頼が大きく揺らいでいる。これまでから求められてきた、冤罪を検証する組織を、今度こそつくるべきだ。

 西山さんを取り調べた滋賀県警や大津地検は、再調査をかたくなに否定している。おととい県警の滝澤依子本部長は定例記者会見で「今後の捜査に生かしたい」と述べたが、そのためには原因調査が欠かせない。

 西山さんは、いわれのない殺人罪で懲役12年の刑に服した。冤罪をもたらしたものは何か、突き詰めるべきではないか。

 再審判決で指摘されたのは、自白の誘導と、不都合な捜査報告書を検察に送らなかった「証拠隠し」だ。不当な捜査と断罪されたが、取調官の行き過ぎや過ちで済まない。組織捜査であり、上司との間で報告や指示があったはずだ。

 冤罪は、警察や検察、裁判所に内在する構造的な問題に起因する、と指摘する法律関係者もいる。相変わらずの自白偏重、科学的視点の弱さ。加えて、組織は間違わないという無謬(むびゅう)性への過剰な信念が、真実を見る目を曇らせるのではないか。

 冤罪が検証、公表されることはほとんどない。足利事件は珍しいケースだ。栃木県の幼女誘拐殺人事件で、無期懲役の菅家利和さんが再審無罪となったのを受けて、警察庁と最高検が検証し、結果を公表している。

 警察庁や栃木県警、科学警察研究所が、それぞれ検証チームを設け、当時の捜査員や幹部、科警研技官を聴取。さらに外部の弁護士や刑法学者、心理学者らから意見を聴き、虚偽の供述やDNA鑑定をめぐる問題点を洗い出している。最高検も、検事から事情聴取した。

 佐藤弁護士は、報告書を不十分と指摘しつつ、これからの刑事司法のあり方を考える上で重要とした。

 組織の内部検証に限界があるにせよ、公表することで、批判や議論の場ができる。それを適正な捜査につなげていくことで信頼の回復が図られる。

 10年前、村木厚子さんが不当逮捕された郵便不正事件で、大阪地検よる証拠改ざんが発覚し、冤罪防止に向けた司法改革が議論された。しかし、部分的な取り調べの録音録画や司法取引の導入に終わった。

 日弁連は第三者による検証機関の設置を、当時の法相に申し入れたが、議論は広がらず、冤罪は繰り返された。

 西山さんの身に起きたことは誰にでもあり得る。過ちの原因を調査せず、対策を講じない司法に、厳しい目を向けたい。