「いまの所持金5万円。何か仕事はありませんか。車の運転はできるので、介護車の運転などもやれます」

 NPOや労働組合などで貧困問題に取り組む白石孝さん(67)=東京都=の携帯電話に先日、男性の声で連絡があった。

 男性はネットカフェなどに寝泊まりしているらしい。「若い人たちは、チラシ配りの現金仕事もなくなって大変です」。男性はそう話したという。

 新型コロナウイルスの感染拡大が経済的、社会的に脆弱(ぜいじゃく)な立場にいる人たちを直撃している。とりわけ、ネットカフェや漫画喫茶などに寝泊まりしている人たちの事情は深刻だ。

 国の緊急事態宣言を受けて東京都が出した休業要請の対象には、ネットカフェや漫画喫茶など24時間営業の店も含まれている。多くの店がすでに休業に入っている。

 首都圏でホームレス支援などに取り組む「つくろい東京ファンド」によると、ネットカフェなどに事実上、暮らしている人は都内だけで4千人に上る。

 不安定な雇用形態で働く人がほとんどで、感染防止対策のあおりで仕事を失った人が少なくないという。

 緊急事態宣言が京都府、滋賀県も含む全国に拡大された。規模は異なるが、ネットカフェなどは休業要請の対象になる。同様の問題が京都市などでも起きる可能性がある。適切な対応が必要だ。

 東京都はビジネスホテルなどを一時的な宿泊場所として無償提供し始めた。神奈川県も、ネットカフェで寝泊まりする人を県立武道館で受け入れ始めた。

 一方で早くも問題があらわになっている。生活保護を受けながらネットカフェで生活していた人たちを東京都はホテルでなく無料低額宿泊所に入所させ始めた。

 無料低額宿泊所はパーテーションで仕切られただけの狭い空間に複数の人が寝泊まりする形式が多い。

 貧困問題に取り組むNPOや弁護士は「環境によっては、感染拡大につながりかねない」と批判する。ネットカフェなどの休業は感染防止が目的だったことを忘れてもらっては困る。

 今後、懸念されるのは失職や廃業に伴い住まいを失う人が出ることだ。

 従来からある「住居確保給付金」はハローワークで求職していることなどが支給要件になっている。これでは、フリーランスで働く人は利用できない。柔軟な運用が不可欠だ。

 家主や不動産業者にも、家賃が払えなくなった人に対する性急な立ち退き要求を控えるよう求めたい。

 立ち退いた人たちが簡易宿所などを転々とすれば、ウイルスの感染拡大につながりかねないからだ。自宅待機や外出自粛と同じように、住宅の確保も感染拡大の防止につながるという視点が重要だ。

 感染を防ぐために自宅にいることが強く求められている。しかし、それができない事情を抱える人たちもいる。そのことを認識しておくべきだ。