新型コロナウイルス感染拡大に伴ううわさやデマ、誹謗中傷について心理学の観点から語る中谷内教授(京都府京田辺市内)

新型コロナウイルス感染拡大に伴ううわさやデマ、誹謗中傷について心理学の観点から語る中谷内教授(京都府京田辺市内)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い真偽不明の情報やデマが多く飛び交い、特定の人々への誹謗(ひぼう)中傷が問題となっている。災害などを含め非常時に繰り返し起こる混乱の背景は心理学的観点からも分析できる。未知のウイルスが人の心にもたらすものは何か。人間の「危険」の受け止め方をテーマに研究する中谷内一也・同志社大心理学部教授(社会心理学)に聞いた。

 ―なぜ不確実な情報が広がるのか。
 「うわさやデマは人々の不安が高まり、確かな情報がない時に広がりやすい。今回、感染拡大やそれに伴う休校措置、イベント自粛が相次ぎ、先が読めない不安が生じた。社会に経験の蓄積や『これからどうなるのか』を示す公式な情報があるわけでなく、非公式な情報やうわさが人々の不安を埋めていったといえる」
 ―不確実情報を基にしたトイレットペーパーの買い占めなど混乱も起きた。
 「混乱と言われるが、実は『デマに流されない人』も巻きこまれる。買い占めが広がると『これからトイレットペーパーは不足し、生活に困るだろう』と考えるのは個人レベルでは合理的といえる。多くの人が今回、『冷静に』トイレットペーパーを余分に買ったのではないか。こうした心理状態は『社会的ジレンマ』と呼ばれ、個人の合理的選択が社会の利益と一致しない状況に陥る。こうなると『冷静に行動を』と呼び掛けても無駄だ。現物を消費者に示すなどしない以上、問題は解決しないだろう」
 ―京都産業大の学生に端を発した感染者集団を巡っては、大学や学生への誹謗中傷が明らかになった。
 「人はフラストレーションがたまると、良くない状況の『原因』を探し、攻撃して排除することで解決しようとしてしまう。社会で暴動が起きる時の心理パターンと同じだ。だが感染拡大防止という面では、感染者情報をきっちり出してもらえたのは社会にとってポジティブ。もし『たたかれる』ことを懸念し情報を隠すようなケースが増えれば、その方が問題だ」
 ―感染拡大防止策に伴って他にさまざまな問題が起きる可能性がある。
 「心理学には一部の問題への不安の度合いが高まるほど他の問題が過小評価されるという仮説がある。新型コロナが大きく注目されているが、他の病気のリスクや社会的弱者への対応など社会にはさまざまな問題がある。新型コロナでも感染拡大以外に、休業要請や在宅勤務で、自宅で過ごす時間が長くなることで家庭内暴力(DV)の増加などの懸念が指摘されている。何かが注目されると見えにくくなる不幸を増やさないようにしないといけない」
 ―市民は新型コロナウイルスを巡る問題にどのように向き合えばよいか。
 「『諦め、長期的に考えること』が大事だ。緊急事態宣言が出されたが、5月までで終息するとは思えない。早期解決への期待をいったん諦めることで、長期化した時に抱く不安や不満は幾分小さくなるだろう。半年、1年スパンでこつこつとウイルスに対応できる生活に変えるべきだ。例えば在宅勤務のため苦手だったネットに対応せざるを得ない人もいるだろうが、この際スキルを上達させるとよい。他方、改めて人と直接会う価値を深く理解できる。それらはコロナが終息した後も、プラスのこととして残るはずだ」