2018年、男子マラソン界では、新記録が次々に生まれた。
2月の東京で設楽悠太(ホンダ)が16年ぶりに日本記録を更新する2時間6分11秒をマークすると、8カ月後のシカゴでは大迫傑(ナイキ)が2時間5分50秒で設楽の記録を塗り替えた。そして9月のベルリン。リオデジャネイロ五輪金メダリストのエリウド・キプチョゲ(ケニア)が2時間1分39秒の驚異的な世界新記録を樹立。それまでの世界記録の2時間2分57秒から大幅な更新となった。
3人は同じタイプのシューズを履いている。ナイキの「ズームヴェイパーフライ4%」。17年7月の発売以来、長距離界に広がった。ナイキジャパンによると、18年の主要マラソン大会で表彰台に上がった選手の過半数が使っていたという。
シューズはフルマラソンの2時間切りを目指した同社のプロジェクト「ブレーキング2」に合わせて開発された。「選手の意見を反映させた」と広報担当者は語る。
目を引くのは、分厚いソール(靴底)だ。足への衝撃を減らすクッション性と、推進力を生み出す反発性―。プロジェクトに参加したキプチョゲらが求めた相反する二つの要素を、軽量で柔らかい新素材のソールと内部に埋め込んだカーボンファイバープレートの組み合わせによって共存させた。
実業団のSGHグループの千葉直輝(滋賀学園出)は昨年1月からヴェイパーフライを履いている。11月の関西実業団対抗駅伝では4区区間賞を獲得。「下りでスピードに乗った時、前に押されるような力を感じた。靴の影響はあったと思う」と実感する。
18年12月。同じスポーツ用品ブランド・ニューバランスの新製品「ハンゾーV2」が発売された。ナイキのヴェイパーフライとは対照的にソールは薄い。開発に関わったのは、シューズ職人の三村仁司さん。五輪金メダリストの高橋尚子さんや野口みずきさんらのシューズを手掛けた「現代の名工」だ。
「足は第2の心臓。それを守るのがシューズ」と三村さん。靴作りの基本は「疲れにくく、故障しにくく、走りやすいこと」。今回も日本人に合うクッション性や反発性などを追求した。
三村さんは「(ソールが)薄いから、厚いから、いいんじゃない」と指摘。「靴はその選手に合うかが大事」と強調する。