たじま・いさお 1958年生まれ。京都大で岸俊男氏に師事。宮内庁書陵部を経て現職。陽明文庫理事。古典籍の伝来と禁裏公家文庫などを研究。編著に「近衞家名宝からたどる宮廷文化史」他。

 明治維新以前、京都にあった古典籍や古文書が近年、続々とウェブ公開され始めている。宮内庁などが保管・管理し、容易に閲覧できなかったものばかりだ。

 きっかけのひとつは、資料のデジタル化の推進だ。東京大史料編纂(へんさん)所を拠点とする学術創成研究費が認められた。日本学術振興会の助成事業で、理系並みの年間億単位の大型研究費が基盤となった。

 大型・超大型科学研究費と、貴重な資料を所蔵する宮内庁や公益財団法人陽明文庫(京都市右京区)など関係者の理解に深く感謝したい。

 陽明文庫は、五摂家筆頭の近衛家伝来本で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)「世界の記憶」に登録された藤原道長の自筆日記『御堂関白記』などを伝えてきた。所蔵資料の中核「十五函文書(じゅうごかんもんじょ)」を中心とした貴重資料の高精細デジタル画像は2014年から順次、東大史料編纂所閲覧室で公開され、16年には約5万件を追加公開した。研究者にとって公開は、大きな前進だ。

 デジタル資料閲覧には当初、東大史料編纂所に出向く必要があった。17年に京都府立京都学・歴彩館と同文庫、史料編纂所の「覚書」で、歴彩館でも閲覧可能になった。同文庫自身もデジタル資料の試験公開をスタートさせ、所蔵「一般文書目録」記載資料画像データの約5千件がウェブ閲覧できる仕組みができた。

 このようにデジタル資料公開の動きは近年、大きく進んでいる。

 史料画像閲覧システム(HCP=ハイキャットプラス)で、宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵「家分け本」のうち、伏見宮家本・桂宮家本・九条家本・白川家本・柳原(やなぎわら)家本・壬生家本・平田家本・三条西家本・続群書類従本(御歌所(おうたどころ)本)のデジタル画像約56万件のウェブ公開が始まった。

 これらも陽明文庫同様、東大史料編纂所での閲覧限定だった。しかし今や原本所蔵先の「書陵部所蔵資料目録・画像公開システム」、国文学研究資料館「新日本古典籍総合データベース」とも連動し、研究室や自宅で閲覧できるようになった。

 ウェブ公開ではないが、東大史料編纂所閲覧室で、皇位と共に継承される「御由緒(ごゆいしょ)物」の一つで近世の禁裏本を中心に伝える京都御所東山御文庫(おぶんこ)本(宮内庁侍従職管理)のデジタル画像公開も16年に始まった。

 前近代の天皇家・公家の「知」の体系を伝える文庫収蔵の古典籍・古文書の利用環境が、大幅改善した。研究室や自宅でも資料を閲覧できるようになり、公開されたデジタルデータを使いこなす力量が問われる時代だ。古典資料の「大公開時代」到来と言えよう。(東京大史料編纂所教授)