人生の節目を収めた写真が掲げられていた高橋写真館の店内(2014年7月)

人生の節目を収めた写真が掲げられていた高橋写真館の店内(2014年7月)

解体作業が始まっている写真館跡(京都府向日市鶏冠井町)

解体作業が始まっている写真館跡(京都府向日市鶏冠井町)

 大正時代から3代にわたって営業してきた京都府向日市の写真店が8月で閉店した。店主が体調に不安を感じ、後継者もいないたために決断した。お客さんの人生の節目に立ち会い、思いを尽くした日々に感謝し、約100年の歴史に区切りをつけた。

 向日市鶏冠井(かいで)町の「高橋写真館」。1921年ごろに向日神社門前で開店した。

 写真館の歴史は、お客さん一家の思い出とともに紡がれてきた。結婚記念の写真を撮った若い夫婦は、生まれた子どものお宮参りや七五三で再び来店する。入学や卒業記念で撮影した子どもが成長し、受験や入社試験に必要な証明写真を頼みに来ることも。そして結婚し、赤ちゃんを連れた一家の集合写真を撮影したこともあった。

 3代目の高橋潤さん(69)は、来店時の日常会話でお客さんの表情や目的を確認し、撮影に臨む。家族写真や証明写真、市議選への立候補ポスター用写真など、その目的は多彩。高橋さんはレンズの位置を変えて被写体の目線を意識的に表現するなど、一枚の写真に少し彩りを添える。子どもの成長を感じられるように。謙虚さや誠実さが感じられるように。思いの詰まった写真にお客さんは「また来るわ」「トップ当選しました」「家宝にします」と喜ぶ。そんな一言が高橋さんの日々の活力だった。

 ピントを手動で合わせることにこだわってきたが、長年患う緑内障と白内障の影響が気になるようになった。70歳を前に瞬発力の衰えも感じる。「今っていう瞬間にシャッターを切れない。品質を落としてでも続けることはしたくない」と一線を外れることを決意。後継者はおらず、店を閉めることにした。

 閉店の知らせを聞いた常連客から「なぜ」「せめてうちの子が成人するまでは続けて」と継続を願う声が届いた。自分の写真を認めてもらえたようでうれしかった。「幸せな日々を与えてくれたお客さんへの申し訳なささと、感謝の気持ちでいっぱい。ただそれだけです」。お客を思う気持ちを貫き、8月10日にシャッターを下ろした。