鳥越社長が現場で見守る中、油揚げを製造する従業員たち

鳥越社長が現場で見守る中、油揚げを製造する従業員たち

 豆腐メーカートップの相模屋食料(群馬県)が、7月から同業の「京都タンパク」(京都市伏見区)の豆腐製造事業を譲り受けた。豆腐業界が縮小する中、経営不振の企業から要請を受けた形の事業譲受。厳しい事業環境におかれる他の業界でも同様のケースが進むと考えられ、救済型事業承継のモデルとして注目されている。

 豆腐業界は、食生活の変化や大豆の高騰などで年々製造施設が減少傾向。豆腐文化が息づく京都も例外でない。1975年創業の京都タンパクは「京禅庵」ブランドの豆腐や油揚げで知られる。価格競争の激化などで、近年、経営環境は厳しかったが、後継者もなく、全国で豆腐業者のM&A(企業の合併・買収)実績がある相模屋に支援を要請した。

 相模屋の鳥越淳司社長(45)は京都出身で、京都タンパクの経営者とも縁があった。京都タンパクは、これまでの事業譲受で最大の案件で、社名と所在地はそのままで新会社を設立する手法を採用。豆腐製造事業と従業員、パート約140人を引き継いだ。

 鳥越社長は「技術の高い『京とうふ』の会社を残すことが豆腐業界全体の底上げになる」と考え、再建のためにほとんどの時間を京都の工場に割き、現場で指揮を執り、社員と直接話す機会を増やしている。「京都には最高峰の豆腐と揚げの文化がある。ブランドのファンも多く、名前は残すべきと考えた」と語る。新たな資本下、そのままの社名で社員の士気も戻り、改善が進んで再建の軌道に乗り始めた。

 事業譲受には資本注入、設備の入れ替えなどのコストがかかるが、「味と技術に憧れていた会社で、潜在能力がある。価格競争で疲弊したが、従業員と過去の栄光を取り戻そうと取り組み、収益性を高める。揚げで世界一を目指したい」と意気込む。

 経営者の高齢化、後継者難、経営不振などで2025年には中小企業の経営者のうち約6割が70歳以上になると見込まれ、中小・零細企業の事業承継は地域経済の重要課題だ。

 18年度に京都府事業引継ぎ支援センター(下京区)に寄せられた相談は、譲渡が69件(前年比15件増)、譲受が70件(同26件増)と年々増えている。譲渡では70代の経営者からの相談が最も多い。事業承継マッチングによる成約は21件(同7件増)と増加傾向だが、さらに成約を加速させないと高齢化による廃業で企業は減り、地域経済の衰退につながりかねない。

 政府も対策に乗り出す。親族内の承継支援が軸の現行制度から親族以外への承継を拡充するため、株式譲渡時の税負担を軽くし、承継に伴う新規事業の立ち上げなどに必要な費用補助などを20年度予算の概算要求に盛り込む見込みだ。

 京都でも、金融機関や京都信用保証協会、府事業引継ぎ支援センターが連携して5月に「京都事業承継サポート会議」を立ち上げた。同センター統括責任者の成岡秀夫さんは「今後、他の業界でも京都タンパクのような案件は増え、府県を超えたM&Aも出てくる。だが、譲受してもらうには普段から技術や製品など自社の事業価値を高めておくことが重要だ」と指摘。「財政面で手がつけられなくなってからの相談が多い。プライドもあり、老舗ほど外部からの干渉を嫌うが、スムーズな事業承継には頭の切り替えが必要で早めの相談が大切だ」とアドバイスする。