市民の抗議運動が続く香港で、混乱の発端となった「逃亡犯条例」改正案の撤回を、香港政府の林鄭月娥行政長官が正式表明した。

 廃案方針を示しながらも撤回を拒んでいたが、譲歩した形だ。

 ただ、市民らは警察の「暴力」を調査する機関の設置や普通選挙実現など「五大要求」を掲げている。条例改正案撤回だけで混乱が収束するかどうかは見通せない。

 抗議活動の背景には、高度な自治権を保障されたはずの「一国二制度」が崩壊しつつあることに対する市民の強い危機感がある。

 香港の自治が保障されるかどうかの道筋が示されないままでは、運動は簡単に終わらないだろう。

 林鄭氏の譲歩を中国の習近平政権が容認したのは、香港への強硬姿勢が奏功していないためだ。

 隣接する広東省深セン(土へんに川)に武装警察部隊を駐留させて武力介入を示唆し、抗議活動を「テロ」と断じてけん制を続けた。10月の建国70年記念式典などを前に、事態を沈静化させたい思惑も読み取れる。

 だが、デモ隊に譲歩した印象が強まれば、軍などから弱腰との批判が出て再び強硬姿勢に転じる可能性も捨てきれない。

 とりわけ、五大要求にある普通選挙実現は、親中派が多数を占める委員会が選ぶ行政長官の選出方法の変更を意味する。香港統治の根幹ともいえるだけに、要求を簡単に受け入れるとは思えない。

 行政長官選挙を巡っては2014年、中国が事実上親中派だけが立候補資格を得られる制度を導入しようとしたことを機に、大規模デモ「雨傘運動」が起きている。

 普通選挙実現は習政権、市民側の双方にとって譲れない部分であり、対立は続くと予想される。

 今回の運動は非暴力などを掲げた「雨傘運動」と異なり、暴力を容認する過激デモ勢力が台頭。警官隊との衝突が常態化し、香港国際空港の占拠にまで発展した。

 ただ、デモには確たるリーダーが存在しないといい、行動がエスカレートすれば理解を示している一般市民の支持を失いかねない。

 林鄭長官は政府と市民の対話の枠組みづくりを提起している。市民側もデモなどの活動の先に、政府と戦略的に向き合っていくことができるかどうかが問われる。

 香港の混乱は「逃亡犯条例」改正案で民主派への圧力を強めようとした中国の態度に起因する。習政権は改正案撤回後も、デモに厳しく臨む姿勢を崩していないが、強硬な対応はいっそうの反発を招くことを考えるべきだ。