かつて元号は移ろいやすいものだった。1596年、伏見城が崩れた慶長伏見地震。おののく豊臣秀吉のもとに謹慎中の加藤清正が駆けつける。歌舞伎や落語の「地震加藤」で知られる逸話だ。ただこの地震は、実は「慶長」の出来事ではない▼発生した時は「文禄」で、天変地異を恐れ、後に「慶長」に改元された。吉兆が表れた時や天災発生時など何度も改元した天皇は少なくない。天皇即位に際した一世一代の改元は明治に制度化された▼昨年5月1日、その制度を超えた特例の代替わりとして「令和」が始まった。30年余り続いた「平成」の終わりをはるか昔のことのように思い返す人も多いのではないか▼それほどこの1年はさまざまなことがあった。京都アニメーション事件、消費税増税、米中貿易摩擦の過熱、そして新型コロナウイルスの発生…あまりよい記憶がない▼コロナ禍の拡大に伴い、国内外で人々の心はささくれだち、排外主義的な言動がはびこる。昔の天皇なら改元を考えていたかもしれない▼「『令』にはうるわしいという意味がある。その名にふさわしい平和の時代に向かう目標になる」。令和の発案者とされる国際日本文化研究センター名誉教授の中西進さんの言葉だ。2年目に入るいま、「令和」の意味を改めてかみしめたい。