手塚治虫さんの代表作というと、無免許の天才医師が主人公の「ブラック・ジャック」(BJ)を挙げる人は多いだろう。全242話といい、巣ごもり連休で読み返している人もいるかもしれない▼ただ1話1話の内容は濃く、ショッキングな話も多い。いま改めて考えさせられるのは、架空の感染症と医師のジレンマを描いた「ちぢむ!」だ▼アフリカの飢饉(ききん)が激しい地域で、人も動物も体が縮んでいく病気が流行する。BJは何とか治療法を見つけるが感染した恩師の医師は手遅れとなる▼亡くなる前に恩師は語る。これは病気というよりも神の警告、あるいは自然の摂理だ。限られた食料を全ての生物で分かち合うために―。作品が描かれた1970年代は人口爆発や飢饉が問題化した。BJは「医者はなんのためにあるんだ」と神に叫ぶ▼新型コロナ対策で緊急事態宣言が延長される。感染拡大を防ぐために人の移動を止め、接触を避ける。だがそれでは経済が回らず、まさに縮む一方になってしまう。多くの人がジレンマの中にある▼京都大の山中伸弥教授は「私たちがウイルスに試されている」とネットで発信し、団結を呼び掛けている。人間はおごらず諦めず、やれることに全力を尽くすしかないのではないか。手塚さんがBJにそうさせたように。