安全対策工事が完了した事故現場(2019年6月、大津市)

安全対策工事が完了した事故現場(2019年6月、大津市)

事故の起こった現場

事故の起こった現場

 大津市で昨年5月、散歩中の保育園児ら16人が死傷した事故で、重傷を負った女児(4)の両親が7日までに報道陣の取材に文書などで応じ、心身に傷を負った愛(まな)娘の近況や事故根絶に向け、思いを訴えた。

 外出時、交通事故の恐怖が以前よりはるかに強くつきまとう。この日(事故が起きた5月8日)を安全に過ごすことは何よりも優先すべきことです」。両親は、痛ましい事故から1年の節目を迎える複雑な心境を明かした。
 当時3歳だった女児は事故で左脚や骨盤を折るなどし、昨年7月中旬まで2カ月半入院した。一時はギプスを装着し、思うように動けないことにストレスを強く示したが、今年1月には後遺症の心配は少ないと診断されるまでになった。新型コロナウイルス感染拡大の以前は保育園にも復帰していた。
 だが、今も事故の影響とみられる言動が残るという。元気に走り回る姿を見せる反面、少し歩いただけで「足が痛い」としゃがむことがあり、突然、「もうギプス取れた」と口にしたこともあった。スーパーの駐車場では手をつながないと動けなくなったり、ガードレールがある歩道では「ここだったらプップ(車)来ない」と話したりすることもあり、両親は「身体的なダメージもあったが性格が臆病になった。成長段階でどういった形で事故の影響が出るか分からない。不安は常にある」と吐露した。
 両親にとっても、ニュースの中の出来事だった事故は日常を一変させた。発生当初は不眠不休で傷ついた娘の看病を続けた。深夜に発生現場を訪れ、事故の衝撃でひしゃげたフェンスや、手向けられた多くの花束を見て、涙があふれた。
 自動車運転処罰法違反(過失致死傷)などの罪に問われた右折車の女性(53)=禁錮4年6月の判決が確定=の大津地裁での裁判にも被害者参加制度を利用して臨み、女性に反省を求め、厳罰を訴えた。女性は公判中に報道機関の取材に「不運が不運を呼んだ」と発言するなどした。両親は「被害者の心情を無視しすぎているという印象だった。散々、被告人側に振り回された」と振り返り、「4年半我慢したら(罪の償いが)終わりだと思われるのは怖い」とした。
 事故後、現場の交差点には防護柵が設置されたほか、大津市内の道路では近くに保育施設などがあることを示す「キッズゾーン」が導入されるなど、安全対策が講じられている。「防げる事故は少なからずある」と評価する一方、身の回りでも歩道と車道の区別がつかない危険な道路はまだ多いといい、「課題は多く安全になったとは言えない。事故現場だけでなく、広い視野を持って整備してほしい」と訴えた。
 今後は再発防止に向け、自らも力を注ぐ。事故後、2012年に亀岡市で集団登校中の児童ら10人が死傷した事故の遺族らと交流し、体験を語り継ぐ大切さを知った。「日本のどこかで毎日のように事故は起き、件数以上に傷ついた人がいるという事実を知った。『私はもう傍観者ではない』と強く思った」と力を込める。悲惨な事故が風化することを危惧し、交通事故抑止に向けた活動も始めるという。
 重ねて全てのドライバーに訴えかける。「ハンドルを握る際、どうか考えてみて下さい。身勝手で無責任な運転をした末に取り返しのつかない事故が起こってしまう。加害者になれば膨大な時間が奪われ、苦しい未来を生きていくことになる。安全に運転できる『能力』と『責任』がなければ運転するのをやめて下さい。決して癒えることはない被害者の心の傷の痛み、悲しみを背負う覚悟があなたにありますか」