タブレット端末にダウンロードしたデジタル教科書。音声で文章を読み上げるのに合わせ、当該の部分がハイライトで表示される(京都市下京区・市総合教育センター)

タブレット端末にダウンロードしたデジタル教科書。音声で文章を読み上げるのに合わせ、当該の部分がハイライトで表示される(京都市下京区・市総合教育センター)

 「子どもに読み書きが困難な障害があるため、デジタル教科書を授業で使いたいと学校に相談したが、聞き入れられなかった」。京都府南部に住む女性(36)から、京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」にそんな声が寄せられた。デジタル教科書は、文章の読み上げや拡大表示などの機能がある電子教材で、今年4月施行の改正学校教育法で正式な教科書に認められた。3年前に施行された障害者差別解消法は、障害のある児童・生徒に合理的な範囲で配慮するよう公立学校に義務づけている。それでもデジタル教科書の使用が難しいのはなぜか。教育現場の実情を探った。

■「他の児童がずるいと感じる」

 まず女性に話を聞いた。小学2年の長男は、教科書や黒板に書かれた文字を認識するのが苦手で、学習障害の一種の「ディスレクシア」と診断された。知的には問題ないため、女性は学習をサポートする方法をいろいろと模索してきた。

 その一つがデジタル教科書だった。文章の音読機能がある上、読み上げている部分をカラフルに表示することもできるため、頭に入りやすい。長男は主に家庭学習で使っており、効果を実感しているという。

 そこで、女性は長男が1年生の時、通学する公立小学校に「授業でもデジタル教科書を入れたタブレット端末を使わせてほしい」と要望した。だが、学校は「1年生のうちはまだ早いのでは」「他の児童がずるいととらえる」などと難色を示したという。学校の理解が得られない上、長男が担任の指導になじめなかったこともあり、現在は校区外の学校に通っている。

 女性は「文字の認識が困難なために勉強が苦手な子どもは、ほかにもいるはず。デジタル教科書を使えば、学力を底上げできるのに」と疑問を投げ掛ける。

■タブレットの導入すらハードル高く

 授業でデジタル教科書の使用を認めるのは、それほどハードルが高いことなのか。取材を進めると、それ以前の問題としてタブレット端末の導入すら容易でない事情が見えてきた。

 教員研修や授業研究を手がける府総合教育センター(京都市伏見区)は2016~18年度、読み書きに困難のある府内の児童・生徒にタブレット端末を無償で貸し出し、デジタル教科書などで学習を支援するプロジェクトに取り組んだ。特に18年度は、学習障害のある児童に応じた指導を行う通級指導教室だけでなく、通常授業での活用が大きなテーマだったが、プロジェクトに参加した児童・生徒11人のうち実際に使ったのは2人にとどまった。

 同センター特別支援教育部の下野恵子部長は、授業でのタブレット端末の活用が進まない要因に、児童・生徒本人の意欲に加え、「みんな一緒」を前提にした教育現場の風土を挙げる。1人だけタブレット端末を使うと、クラスメートや保護者から「なぜその子だけ」と不満が出る可能性がある。本人も周囲との違いを気にして使用をためらう。下野部長は「みんな得手不得手がそれぞれ違い、学び方も異なることをもっと知ってもらう必要がある」と話す。

 京都市教育委員会もデジタル教科書の活用を進めているが、通級教室が中心で、授業で使う例はまだ少ないという。総合育成支援課は「特別扱いではないことをクラスメートや保護者にどう説明するかで、教員がちゅうちょする場合も少なくない」と指摘する。

■学習サポート、進学につながった例も

 スムーズに導入できた事例もある。高野中(左京区)を今春卒業した女子生徒(15)は、漢字や長文を読むのが苦手なため、一部の授業でデジタル教科書をダウンロードしたタブレット端末を使ったが、他の生徒や保護者から疑問の声は出なかったという。

 母親(45)は「先生の方から、娘にとってより良い学習方法を提案してくれる雰囲気があった。タブレット端末を使う際も、クラスメートに丁寧に説明してくれたため、自然に受け入れられた」と感謝する。

 女子生徒はこの4月、市内の私立高校の普通科に進学した。将来の目標は警察官という。