「注文をまちがえるリストランテ」で注文をとる晏子さん(右)。時間はかかるが穏やかな空気が流れる=京都市下京区・マールカフェ

「注文をまちがえるリストランテ」で注文をとる晏子さん(右)。時間はかかるが穏やかな空気が流れる=京都市下京区・マールカフェ

 東山の絶景を見渡せて人気の「マールカフェ」(京都市下京区)。満席の店内で、エプロン姿のお年寄り4人が忙しく接客する。「マールバーガーを一つください」。とっちゃん(81)は注文を聞き「マリーバーガー一つですね」。思わず客に笑みがこぼれる。男性のおおやぶさん(79)は、カタカナの長いメニューが分からない。客は伝票に自らメニューを記した。

 料理を運ぶのにも時間がかかる。テーブルを間違うこともある。でも、そのこと自体を楽しみませんか-。こんなコンセプトの「注文をまちがえるリストランテ」が先月のクリスマスイブに開かれた。4人はいずれも認知症。普段は介護を受ける側だが、この日は違う。「体を動かすのが好き。どうにかできたかな」。おはなさん(68)は充実感を漂わせる。

 「人から褒められ、役に立つこと。働くことが一番の特効薬と思って」。主催した「まぁいいかlaboきょうと」代表の平井万紀子さん(54)=伏見区=は企画趣旨を説明する。

 認知症と診断された母晏子(やすこ)さん(83)と4年前に始めた同居がきっかけだった。症状は年々悪化し、「秒速で言ったことを忘れる」。夜中に突然泣く、怒る、出て行こうとする。入退院も繰り返すが、晏子さんは病院にいる理由が分からない。「なんでここにいなあかんの」。延々と怒鳴る。「毒娘の私は正直、母の退院 憂鬱」。ブログに正直な心情をつづる。

 大好きな母なのに。接し方に悩む中、玄関マット配達の仕事が好きだった母の姿が頭に浮かんだ。「母はデイサービスに行きたくない、働きたいと繰り返していた。人から必要とされることを欲していた」。そんな時、東京で元NHKディレクターの小国士朗さんらが始めた「注文をまちがえる料理店」のイベントを知り、参加した。2017年9月。おしゃれなカフェでは、「キャスト」と呼ばれる認知症のお年寄りが、きれいに化粧をして生き生きと働いていた。

 「生まれ育った京都で同じ活動をしたい」。昨年3月に左京区の店を借りて晏子さんと最初のカフェを開催した。5回目となった同9月には、ホテルグランヴィア京都(下京区)で17人の認知症キャストが120人から注文をとり、料理を運んだ。

 「『まちがえる』という名称だけど、間違えることが目的じゃない」。だけど、多少の迷惑をかけることがあっても受容できる社会にしたい。団体名にもした「まぁいいか」の精神で。

 クリスマスイブには、3時間で80人が来店した。晏子さんも働き、疲れたら店の椅子に座って休み、客と談笑した。来店した中京区の女性(56)は「みんな、完璧が求められる重圧の中で日々を過ごしている。ここに来ると心が解放される」と話す。趣旨に賛同して通常営業時間内に働く場を提供したカフェオーナーの友添敏之さん(40)は、4人にそれぞれ2500円の謝礼を支払った。「もろてええのんやろか」。キャストの顔がほころぶ。

 高齢化が急速に進む中、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると言われる。「認知症の問題を通じ、寛容でだれもが暮らしやすい社会をつくることができれば」。平井さんは「リストランテ」の常設化を目指し、協力してくれる人や飲食店を探している。

      ◇

 2019年が幕を開けた。今年は改元で新しい時代を迎える。急速に進む少子高齢化や国際化、情報技術革命。ポスト平成の世の中は、どのような風景が広がるのか。旧来の価値観が大きく揺らぐ中、多彩な生き方を追い求める人々を訪ねた。