安倍晋三首相が1カ月前に投稿した動画が「あなたはルイ16世か」と揶揄(やゆ)された。コロナ禍のさなか、自宅でくつろぐ姿がフランスの絶対君主のイメージに重ねられた▼当の安倍氏は意に介していないかもしれない。かつて「憲法が国家権力を縛るのは、王権が絶対権力を持っていた時代の考え方」と述べている。古い時代の考え方にとらわれずに改憲を目指す自分は絶対君主ではない、と思っているかのようだ▼その安倍氏が成立を目指す検察庁法改正案に、抗議のツイートが400万超も寄せられた。政権に近いとされる東京高検検事長の定年延長を正当化し、検察トップの検事総長に就ける道を開くのではないかとの疑念が背景にある▼検察官は強い捜査権を持ち、疑惑があれば首相や政権中枢にも切り込む。そのトップに「忠臣」を据えれば、何をやっても訴追される恐れはないというわけだ▼近代の憲法には権力分立の仕組みが埋め込まれた。国家の機能を立法、行政、司法などに分離させて乱用を防ぐ知恵といえる。その原理が崩れれば、政権の権力はますます絶対的となろう▼ルイ16世は無能な王ではなかったようだが、市民が蜂起した革命によって王権を停止された。権力分立をないがしろにする法改正に異議を唱える国民を軽く見てはなるまい。