政府が、新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発・導入に向けて前傾姿勢を強めている。

 国内初の治療薬として、米製薬会社が開発した「レムデシビル」を厚生労働省が特例承認した。

 国内審査を簡略化できる制度を適用し、申請の3日後という異例のスピード承認だ。早速、今週初めから医療機関に配り始めたという。

 特効薬がないまま多くの命を脅かし続ける新型コロナに立ち向かい、治療の選択の幅が広がることは医療現場の力添えとなろう。

 ただ、現段階でレムデシビルの治療効果の評価は定まっておらず、副作用の報告もある。

 過大な期待によって、安全性がないがしろにされることがあってはならない。患者への使用の可否や投与後の経過を冷静に見極め、検証していくことが求められる。

 治療薬をゼロから開発するには10年以上かかることが多い。喫緊の新型コロナ対策では、世界で人への投与実績のある既存薬の中から有望なものを探す戦略で進められているのは自然な流れだろう。

 レムデシビルも当初はエボラ出血熱治療のため開発された薬だ。一足早く許可した米国は、国立衛生研究所による約千人対象の臨床試験で、患者の回復が約30%早まったとの初期分析を評価した。

 一方、中国で約240人対象の臨床研究では明確な有効性が確認できなかったとの報告があり、効果検証の途上なのは否めない。

 副作用の懸念もある。日本を含む国際的な臨床研究で重症患者53人の7割近くで症状改善がみられたが、4分の1に腎機能の低下など重い副作用が報告された。

 十分な供給量が確保できるかも不透明で、重症患者を投与対象に国の管理下で医療機関に配るとしている。正負の両面を踏まえ、細心の注意を払って活用すべきだ。

 さらに日本で期待が高いのが抗インフルエンザ薬「アビガン」である。国内で開発され、新型ウイルス増殖を防ぐ「切り札」として国が備蓄してきたからだ。

 安倍晋三首相は5月中の承認を目指すと前のめりだが、効果を示すデータは不十分との指摘がある。胎児への副作用の可能性も報告されている。慎重な検討が必要だ。

 他にもさまざまな候補薬が検証されているが、どれも特効薬というには決め手を欠き、ワクチン開発も1年以上かかるとみられる。当面は接触削減など感染防止策を併用しつつ、世界の知恵と経験を集めて効果的な治療の開発・実用化を着実に進めねばなるまい。