ひずみが一部に集中すると、やがて亀裂が生じ、大きな分断が起こる―。そんな未来は避けたい。

 厚生労働省はこのほど、世帯ごとの所得格差に関する2017年調査の結果を発表した。

 格差を示す指標「ジニ係数」は過去最大になった14年調査からわずかに改善したが、ほぼ横ばいである。

 調査は1962年から原則3年に1度実施される。わずかとはいえ係数改善は81年の調査以来、実に36年ぶりという。

 厚労省は「アベノミクスによる景気好転で所得が増え、格差拡大に歯止めがかかった」と強調する。社会保障と税の再分配機能について一定の効果を発揮していると評価した。

 本当にそうだろうか。過去十数年の係数の推移をみると、むしろ高い水準で格差は固定化しているように思える。

 「肌感覚では、貧困層を取り巻く環境は3年前とほとんど変わっていない」。生活困窮者を支援するNPO法人の関係者はそう指摘する。係数だけで実態は測りきれないだろう。

 格差を、ある世代や層に固定化させないことが重要だ。

 貧困状態にある母子世帯や子ども、バブル崩壊後の不景気で就職機会に恵まれなかった就職氷河期世代の非正規労働者や失業者…。そうした人たちにひずみが集中する構造を解消しなくてはならない。

 収入がなく老後生活を年金に頼る高齢者世帯は増えている。再分配は高齢者らの生活を支えるものの、現役世帯の負担増につながりかねない。

 同じ世代内でも、高所得者と貧困層の格差解消を考えていく必要があるだろう。

 今後、格差が拡大に転じる可能性も拭えない。誰もが働きやすい環境の整備や待遇改善への取り組みなど、国には一段の対策が求められる。

 格差や貧困が日本社会の課題となって久しい。心配なのは、格差の固定化がどんな影響をもたらすのかということだ。

 最も発信力のある経済学者といわれるタイラー・コーエン氏の近著「大分断 格差と停滞を生んだ『現状満足階級』の実像」は、米国社会の現状を悲観的に書いている。

 興味深い話がある。一般に所得格差が大きくなるほど、社会不安より政治的無関心が強まるケースが多いという。

 欧州諸国の研究で明らかになり、米国も同様に、かつてのような低所得者層の反乱がみられなくなった。現状に満足し、騒ぎを嫌う「NIMBY(Not In My Backyard=うちの裏庭にはやめてくれ)」という風潮が広がり、社会を分断した。

 社会が活力を失い、民主主義の形骸化が進んだ。批判を吸い上げるソーシャルメディアが「大衆のアヘン」と化している―と。

 コーエン氏は日本を「現状満足の時代の先駆者」とし、他のどの国よりも上手にそのような時代を生きていると評価する。だが、米国で起きていることに思い当たる点も少なくない。

 大分断を避けるために、今が正念場ではないか。