自分で育てたチューリップが開花し、笑顔の心誠くん(4月19日、富山県砺波市)=両親提供

自分で育てたチューリップが開花し、笑顔の心誠くん(4月19日、富山県砺波市)=両親提供

 大津市北比良の国道161号で5月、飲酒運転の車がワゴン車に衝突し5人が死傷した事故で、ワゴン車で亡くなった富山県砺波市の小学4年男児(9)の両親が、京都新聞社の取材に応じた。男児は「心誠(しんせい)」という名前の通り、ルールをきちんと守り、優しい心を持つ男の子だった。成長を楽しみにしていたさなか、飲酒運転で命を奪われ、両親は「本当に悔しい。許せない」と無念を語った。

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 5月4日深夜、両親と長女、末っ子の心誠君の4人は、京都大に進学した長男を訪ね、ワゴン車で京都市に向かっていた。心誠君は、運転席後ろの席でシートベルトを締め、ドア側に頭をもたせかけて眠っていた。

 心誠君にとっては、物心ついて初めての京都になるはずだった。朝一番に清水寺で「頭の良くなる水を飲む」と楽しみにしていた。お昼はハンバーグ、その後はパンケーキ。そして、兄を慕う心誠君が「僕も入る」と憧れていた京都大を見学する予定だった。

 日付けが変わって5日午前0時50分ごろ、父親(46)は、国道161号志賀バイパスを走行中、片側1車線の緩やかな左カーブで、対向車が車線を逆送してくるのに気づいた。とっさに左にハンドルを切ったが、ワゴン車の右側面に突っ込まれた。

 父親がワゴン車を降りると、右側のスライドドアが吹っ飛んでいた。頭に大きなけがをした心誠君が見えた。「心誠、心誠!」。大声で呼びかけても動かない。母親(44)が抱きかかえると、みるみる服が真っ赤に染まった。

 近くに、対向車を運転していた男が立っているのが見えた。母親は「何してたん」と聞いた。男は「ぼーっとしてました」と答えた。謝罪はなかった。「心誠返してよ!」。母親は叫んでいた。

 心誠くんは約30キロ離れた大津赤十字病院(大津市)に救急搬送された。両親が病院につくと、カーテンの隙間から処置を受けている心誠くんの足が見えた。血の気を失っているのは明らかだった。午前2時6分、死亡が確認された。

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 夜が明けた。「心誠を守ってやれなかった」。父親は自分を責めた。「あの時間に走らなければ」「違うよけ方があったのでは」。そんなことを考えながら、葬儀社の車で富山に戻る途中、滋賀県警から電話があった。対向車の男から微量のアルコールを検知したと知らされた。

 「酒飲んどったんやと」。電話を終えた父親が漏らした。母親は「うそでしょ」と思った。男は、高島市で勤務先の社長と飲酒後、泥酔した社長を京都市まで車で送り、再び高島へ戻る途中だったという。飲酒運転による悲惨な事故が何度も報道され、厳罰化の流れも進む中で、いったいどういうことなのか。

 7日、心誠君の通夜の前に、男は砺波市の自宅まで謝罪に来た。しかし、泣いて下を向くばかり。そこで飲酒の事実に触れることはなかった。5月中~下旬ごろ、男は電話で「大切なことをお話ししていませんでした」と、ようやく飲酒の事実を告白した。

 「心誠」という名前は、「うそのない誠の心を持つ人になってほしい」と願って付けた。車では必ずシートベルトを締め、父親や友人がルールを破ると、きちんと注意する子だった。父親は「それが、ルールを守らない無責任な大人に殺された」と憤る。絶対に許す気持ちにはなれない。

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 心誠君が生まれ育った砺波市は、日本一のチューリップ産地。心誠君もチューリップが大好きで、母親を喜ばせようと内緒で庭に球根を植えたことがあった。小学4年になり、カメラを向けると照れる心誠君だったが、チューリップの横では自然な笑顔で写ってくれた。

 今年は夏休みの自由研究にするため、「イチゴスター」という品種を自分で選んで購入。日なたと日陰で開花時期がどう変わるか、毎日気温と地温を測って調べていた。4月になり、相次いで赤い花が咲き始めていた。

 8日の葬儀では、クラスメートが歌を歌い、ひつぎに一人一人が書いた手紙を入れてくれた。次々に心誠君の顔に触れ、声を上げて泣いた。頭の傷は病院で丁寧に縫合され、まるで眠っているようだった。母親は、心誠君のチューリップを3輪、ひつぎに入れた。「まさか自分のひつぎに入れるなんて…。無念としか言えません」

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 対向車の男は9月、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)と道交法違反(酒気帯び)の容疑で書類送検された。男もけがをして救急搬送されており、呼気検査は事故の4~5時間後だった。最初の呼気検査では、基準値未満のアルコール分しか検出しなかった。このため、事故時のアルコール濃度を割り出す詳細な捜査が行われた。

 両親は、男の飲酒運転が「危険運転罪」に問われないことに納得がいかない面もある。でも、「逃げ得を許さない警察の捜査に感謝しています」。そして、事故現場で取り乱す一家に寄り添ってくれた女性の看護師、車を降りて交通整理をしたり、発煙筒をたいたりしてくれた多くのドライバーに「お礼が言いたい」と話す。

 「あしたはもっと楽しくなるといいです」。心誠君は事故前日の日記をこう結んでいた。「悔しいね」と話す両親は、男が起訴されれば、必ず裁判の傍聴に行くという。「心誠がどんな大人になるのか、本当に楽しみだったのに見ることができなくなった。今は、裁判を見届けることが親としてできることです」と強く語った。