先月、前川恒雄さんが神戸で亡くなった。89歳。小さな訃報記事は見落としそうで、元滋賀県立図書館長という肩書紹介だけでは、まるで物足りない▼今でこそ、県民1人当たりの図書館貸出冊数は東京に次いで全国2位-と滋賀の自慢の一つになっている。しかし、1980年に新しい県立図書館ができ、前川さんが館長に就いた時は悲惨なもの。県内の公立図書館の設置率は全国46位だった▼前川さんは、東京・日野市で移動車から図書館活動を始めたことで注目されていた。当時の武村正義知事に引き抜かれたが、館長就任にあたり「胴体ができても、手足がそろわないと」と話している。住民に読書の場を提供するのは、身近な市町の図書館との考えからだ▼定年退職までの10年間に県内に図書館が次々誕生し、前川さんらの主導で全国から有能な司書がスカウトされ、館長に就いた。「滋賀の人さらい」と言われたそうだ。図書の充実を掲げ、市町図書館と貸し出し協力のネットワークをつくり上げた功績は大きい▼「書棚の間をさまよっていると、きっと思わぬ良い本にめぐりあう」。まちに図書館があることの意味だと前川さんは本紙に書いている。その言葉がコロナ禍の中で心にしみる▼滋賀では再開した図書館もある。早く書棚をさまよいたい。