職場でのパワーハラスメントを防ぐ対策が、来月から初めて企業に義務付けられる。企業の自主的な対応に委ねてきた状況から一歩前進とはいえ、根絶に向けた実効性が問われる。

 昨年5月に成立した女性活躍・ハラスメント規制法は、地位や立場を背景にしたパワハラを「行ってはならない」と明記した。

 法施行に伴い、大企業は6月1日から相談体制の整備など防止措置が求められ、改善指導に従わないなら企業名を公表される場合もある。中小企業では努力義務として始まり、義務化は2022年4月からだ。

 いまはコロナ禍で大変ではあるが、パワハラ対策も企業にとって待ったなしと言えよう。

 背景には、社員が心身の健康を崩して休職や退職、さらには自殺に追い込まれるなど深刻な被害の実態がある。

 厚生労働省によると、18年度に全国の労働局に寄せられたパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は8万2千件超と過去最多となり、相談の内容別でトップを占めた。京都府で1854件、滋賀県も1019件と、相談件数はともに年々右肩上がりだ。規制強化は「ようやく」の感が否めない。

 国は、パワハラ行為を侮辱や暴言といった「精神的な攻撃」、遂行不可能な仕事を強制する「過大な要求」など典型的な6類型に分けて例示。企業に義務付ける対策10項目として、相談体制の整備やプライバシー保護などを指針で示した。

 パワハラと、適切な教育・指導との境界が分かりにくい日本の企業風土に、一石を投じる意味はある。

 ただ、指針はハラスメントを「職場におけるもの」と定め、保護対象を原則的に企業の社員に限っている点が気になる。飲み会など業務時間外で起きたり、フリーランスや就活生ら社員以外が巻き込まれたりする可能性もある。

 被害の深刻さを考えれば、指針で定められた義務を額面通りに果たすだけでは十分とは言い難い。

 また、罰則を伴う禁止規定がなく、防止義務だけでどこまで抑止力につながるのかも疑問符が付く。

 それでも、せっかく整えた被害防止の仕組みを、いかに機能させるかが重要だ。被害者が悩んだ末、勇気を出して社内窓口に相談しても、迅速、公正な調査が行われなければ救われない。対応を社内の人事担当者だけに任せず、弁護士ら外部の専門家を入れるといった工夫も求められよう。

 加えて企業自身が業務の在り方を含め働く環境を点検し、パワハラ根絶への責務を果たさねばならない。

 企業のパワハラ対策を巡る共同通信の主要110社アンケートでは、8割強の企業が対策の課題に「管理職や社員の意識向上」を挙げた。義務化を契機に、経営陣と社員それぞれの意識を高める取り組みこそが根絶の鍵となる。

 嫌がらせ以前の、理解不足から起こるパワハラも多い。企業が防止措置を強化するのはもちろんだが、働く人一人一人の意識改革が欠かせない。