明るい笑顔と朗らかな歌声で、時にコミカルな作品も歌いこなす。重苦しい空気がただよう昨今だが、国民的歌手と呼ばれた故三波春夫さんの歌を聴くと、自然と頬がゆるむ▼一方で三波さんは芸に厳しかった。舞台では「雑念を払い、澄み切った心でなければ完璧な芸を見せられない」と、あたかも神の前で祈るように歌ったという。これが有名なフレーズ「お客様は神様です」の真意であると公式サイトは解説する▼残念なことに、この言葉は「客は神だから店員は徹底的に尽くすべき」と誤って解釈されることが多い。コロナ禍のいま、スーパーやドラッグストアでは、自分の要求が通らない客の暴言や暴力が問題になっている▼「『なんで品切れなんや』と詰め寄られた」「客に脚を蹴られた」。衛生用品や日用品などさまざまな商品が品薄になる中、本紙には店員さんからの悲鳴が相次いで寄せられている▼生活必需品売り場で働く人たちは、多くの客と至近距離で日々向き合わざるを得ない。接客の笑顔の奥に、感染への恐怖をしまいこんでいることだろう▼客が病気への恐れや焦りから店の人に攻撃的になるのなら、すでにコロナに負けているといえる。こんな時こそ、私たちの暮らしを献身的に支える店員さんへの敬意と感謝を忘れないでいたい。