「苦しみ、悲しみ、絶望感は察するに余りある」―。元夫の暴行を容認して5歳の娘を救えず、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の裁判員裁判で、東京地裁は懲役8年の判決を言い渡した。

 元夫による精神的なDV(ドメスティックバイオレンス)の影響を認めつつも、重大な結果を招いた責任に厳しい姿勢を示したといえる。だが、わが子の命を守る親として無力だった母親を断罪するだけで終わらせてはなるまい。

 事件は、東京都目黒区で昨年3月、両親の虐待によって船戸結愛(ゆあ)ちゃんが亡くなった。その3日前には「ゆるしてください おねがいします」とノート片につづっていたのが痛ましい。

 判決によると、母親の優里被告は昨年1月下旬ごろから結愛ちゃんに十分な食事を与えず、元夫の雄大被告=同罪などで起訴、10月1日に初公判=が暴行していることを知りながら結果的に容認。虐待の発覚を恐れて放置し、敗血症で死亡させたという。

 優里被告はなぜ虐待を止められなかったのか。法廷では心理的DVの影響が明らかになった。

 冷静に考えれば娘に対する仕打ちは理不尽と感じるに違いない。しかし、DVにより現実的な判断ができなくなっていたことも想像に難くない。母親としての責任は重大とはいえ、大幅には免責されず量刑は重過ぎないか。

 子への虐待がエスカレートしていく背景に配偶者間DVが潜む構図は他の事件にも共通する。周辺からの通報が多い虐待に比べ、DVは被害者が自覚して訴えなければ表面化しにくい。誰かに相談するなどしてなぜ逃れられないのか、背景を考える必要もある。

 後を絶たない虐待事件を受け、対策は強化されてきた。6月に成立した改正児童虐待防止法などで児童相談所と配偶者暴力相談支援センターなどの連携強化を明記、双方がDV対策と虐待発見に向けて協力する態勢づくりを求めた。

 専門家は虐待対策から入った児相がDVを含む家庭内の力関係を見極め、介入したり支援計画を立てたりする必要があると指摘する。

 だが、児童虐待の相談・通告件数は年間15万件以上、DVも10万件以上あり、いずれの現場も対応に追われている。対策が生かせる人員配置がなければ画餅に帰す。増員はもちろん、適切に対処できる人材の育成も急務である。

 命と引き換えに結愛ちゃんが残した教訓を生かし、悲劇を繰り返してはならない。