新型コロナウイルスの感染拡大は「交通崩壊」をも招くと指摘する藤井教授(京都市内)

新型コロナウイルスの感染拡大は「交通崩壊」をも招くと指摘する藤井教授(京都市内)

 新型コロナウイルスの感染拡大で全国の交通事業者の売り上げは少なくとも年間3・5兆円減る―。そんな試算結果を、交通政策が専門の大学教授らでつくる「日本モビリティ・マネジメント会議」(京都市北区)がまとめた。外出自粛の広がりで交通機関の利用者が急激に減る中、地域社会を支える「市民の足」が大きな打撃を受けることに警鐘を鳴らしている。

 減収額は、鉄道、タクシー、バス、航空、船舶といった各交通手段の2016度の営業収入に、国土交通省などが公表している3月の減収率を掛け合わせて算定した。4月の減収率は実績が未公表のため、JRの在来線や路線バス、タクシーなど主に都市内での移動に使われる交通手段は60%減、新幹線など都市間移動は90%減と仮定した。
 その結果、6月初めから需要が回復する楽観的なシナリオでも年間3・5兆円、政府による緊急事態宣言が12月まで断続的に続くと想定した悲観的なシナリオでは8・3兆円の減収になると推計された。JRや大手私鉄、航空会社などを除き、地域の交通を支える地方の中小事業者に限っても最小1兆円、最大2・3兆円の損失が見込まれる。
 各事業者は運休や減便などで経費節減を図るが、例えば鉄道事業では車両を動かす燃料費の5%程度しかコストを抑制できないという。交通事業の支出は、人件費や修繕費など運行に関係なく必要な「固定費」の割合が高いためだ。
 同会議で代表理事を務める藤井聡京都大教授は「利用者の急減で多くの交通事業者が経営の危機にある。交通事業者が提供しているサービスは公共性が高く、損失分は国が全額補塡(ほてん)すべきだ」と話している。

■危惧される「交通崩壊」

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う観光や外出自粛の広がりで、交通事業者の経営基盤が揺らいでいる。影響が長引けばドライバーの解雇や雇い止めだけでなく、公的インフラである地域の交通網が維持できなくなる恐れもある。交通政策に詳しい京都大の藤井聡教授に現状や対策を聞いた。
 ―新型コロナが与える交通事業者に与える影響は。
 「大変だ。関西のある民間バス会社は乗客が6割減り、このままでは今夏にも現金が尽きるという。今年1年で見込んでいた経常利益が4月の減収で吹っ飛んだバス会社もある。このままでは経営が立ちゆかず、サービスを提供できなくなる『交通崩壊』が危惧される」
 ―「交通崩壊」とは。
 「電車やバスなど各事業者が倒産・廃業し、路線を維持できなくなったり、倒産しなくても赤字路線から撤退したりすることで、市民の暮らしの足を支えられなくなることだ」
 ―何が必要か。
 「事業者の損失分を全額、国が補塡(ほてん)すべきだ。行政が事業者に金を払って赤字路線を維持するのは従前からなされており、公共交通に税を投入することへの国民のコンセンサスはある」
 ―かなりの規模の財政出動になる。
 「平時なら財政規律を気にする人もいるだろうが、今は緊急事態。これまで何とかして維持してきた公共交通がつぶれれば、今まで投入してきた金をどぶに捨てることになる。スピードが大事だ」
 ―われわれ市民にできることは。
 「感染を予防するため自動車で移動する人が増えたが、電車やバス、タクシーでも換気がしっかりと行われ、皆が静かにし、目、鼻、口を触らないようにすれば、感染リスクはほぼゼロになる。過剰に恐れる必要はない。公共交通を優先する時代の流れを逆行させてはならない」