やはり、無理筋の法案だったと言わざるをえない。

 安倍晋三政権は、検察官の定年延長などを内容とする検察庁法改正案の今国会成立を断念した。

 法案には、内閣などが幹部ポスト留任を認める「役職定年制」の特例規定が含まれ、政権が特定の幹部を優遇できるなど権力分立の観点から問題が指摘されていた。

 著名人がツイッターなどで相次いで批判の声を上げたほか、検察OBらも反対や再考を求める意見書を森雅子法相に提出していた。

 こうした世論を無視できなかったのだろう。法案の採決方針を転換したのは当然の判断といえる。

 だが、安倍政権は採決を諦めてはいないようだ。「束ね法案」として一本化している国家公務員法改正案とともに秋の臨時国会で再び審議する姿勢を崩していない。

 国民は、政権が検察に介入できる特例規定に疑念を持っている。この規定は白紙に戻すべきだ。

 そもそも、検察官の定年を延長し、特例規定まで設ける検察庁法改正案の必要性は分かりにくく、納得できる説明もなかった。

 政権に近いとされる東京高検検事長の定年退官を先延ばしし、検察トップの検事総長に就けるためと勘ぐられても仕方ない。

 安倍氏は「恣意(しい)的な人事が行われることは全くない」と繰り返したが、検察の独立性を侵すとの認識にあまりに欠けていた。

 見過ごせないのは政権側の国会答弁だ。安倍氏は「国家公務員の定年延長は検察官に適用されない」とする1981年の政府答弁や閣議決定との矛盾を指摘されると「法解釈の変更」に言及した。

 その変更は「口頭決裁」で行ったとされ、正当な手続きを裏付ける資料も示されていない。

 ルールの解釈を議論も不十分なまま変えたり、証拠となる文書を残さずに押しきったりするやり方は、安全保障関連法の採決強行や「桜を見る会」の名簿破棄にも通じる安倍政権の手法といえる。

 法案に反対する声が急速に広がったのは、政権のこうした体質に対する国民の不信が募っている証左ではないか。「安倍1強」の長期化に加え、コロナ禍への対応の遅れを巡り、今まで以上に厳しい視線が注がれていることを安倍氏は改めて認識せねばなるまい。

 一方、検察官も含めた国家公務員の定年延長に関しては、高齢社会をふまえて幅広く検討する余地がある。論点の異なる法案は束ねるのでなく、必要性を十分説明して国会審議に委ねるのが筋だ。