感染拡大が止まらない豚コレラ対策として、農林水産省は養豚場の豚へのワクチン接種を実施する方針を決めた。

 これまで豚肉の輸出に支障が出かねないとワクチン使用に慎重だった姿勢を大きく転換する。

 国内で26年ぶりに豚コレラが発生して1年、飼育豚への感染は中部、関東の6県に広がっている。隣接する滋賀県でも今月19日、主な感染源とされる野生のイノシシの感染が初めて確認され、さらなる拡大への不安が高まっていた。

 養豚農家らからワクチン接種を求める声は強く、国の決断が「遅すぎる」との批判は免れまい。

 ワクチンの効果が期待される一方、接種の範囲や流通制限などが課題となる。国の責任で早急に実施態勢に移し、生産者や消費者の不安の払拭(ふっしょく)に努めねばならない。

 国が接種方針に転じたのは、発生施設の防疫措置や野生イノシシ対策を中心とする封じ込め策の効果が表れず、悪化の一途をたどる状況への危機感からだ。

 9月に入って関東に感染が拡大し、一大産地の群馬、千葉両県にも及びかねない事態に国は重い腰を上げざるを得なくなった。

 農水省は、ワクチン接種が可能になるよう防疫指針の改定を急ぎ、通常は数カ月かかる手続きを極力早めて実施したいとする。豚コレラの発生県から地域を限って接種し、隣接県やイノシシの感染地域に順次広げる考えだ。

 ただ、今回の接種は「予防ワクチン」として、実施の判断が都道府県知事に委ねられるという。接種の時期や範囲がばらつき、十分な効果が出ない恐れがある。

 農水省は、接種した地域内で豚や豚肉などの流通をとどめる方針だ。制約を避けたい地元農家の要望によっては、自治体間で対応が分かれかねない。

 国が責任を持って接種の対象地域や流通制限の方法、影響緩和策を明示し、これ以上の感染を食い止めるために対策を総動員することが求められるだろう。

 生産・流通業者には、ワクチン接種で風評被害が広がるのではとの心配もあろう。豚コレラは人間にうつらず、感染やワクチン接種をした豚の肉を食べても影響がないことを丁寧に周知する必要がある。

 さらに別の伝染病「アフリカ豚コレラ」への警戒も要る。中国を中心に流行し、韓国でも今月に発生した。豚の致死率が高く、ワクチンもない。ウイルスの侵入阻止が基本であり、現場の衛生管理とイノシシ対策をより徹底したい。