国内で開発された農作物の種苗が無断で海外に持ち出されるのを規制する種苗法改正案について、与党は今国会での成立を見送る方針を固めた。

 改正案は、農家が収穫物から種などを採取して次の栽培に使う「自家増殖」を制限する内容を含んでおり、栽培の自由を狭める懸念が出ている。

 本当に農家のためといえる改正なのか。議論を仕切り直す機会にしてはどうか。

 改正案の背景には、近年、登録品種の優良なブドウやイチゴなどが中国や韓国に不正に持ち出されて栽培され、販売されているケースが相次いでいることがある。

 このため、開発者が品種登録の際に輸出可能な国や国内の地域を指定できるようにし、歯止めをかけようというのが今回の改正案である。

 権利侵害には、10年以下の懲役または1千万円(法人は3億円)以下の罰金が科せられる。

 登録品種の多くは、国や都道府県の研究機関などが長い年月と多額の費用をかけて開発した知的財産である。

 その流出を阻止し、輸出の障害をなくしたいという趣旨は理解できるが、引き換えに農家側に長年認められてきた自家増殖の権利を抑制することになれば、生産現場の意欲をそぐことにならないか。

 これまで農家は登録品種であっても、育てた作物から採種や挿し木をして自家増殖することが原則認められてきた。それが品種開発者の許諾なしにできなくなる。

 登録品種以外の品種は全体の9割を占め、それらは自由に増殖できる。加えて登録品種も公的機関の開発が中心なので農家への影響は大きくないとの見方もある。

 しかし政府は都道府県にコメなどの優良品種選定などを義務づけた主要農作物種子法を2年前に廃止、農業競争力強化支援法で自治体が持つ種苗生産の知見を民間事業者に提供するよう促した。

 種苗開発の主軸を公的機関から民間へと移そうとしているのは明らかだろう。

 開発者の権利を強める今回の改正案も、その流れにあることは否めない。多国籍企業が種苗を独占していく手段となるのではないか、といった専門家の声さえある。

 開発者の権利は大事だが、栽培する側の権利とのバランスを欠けば食の安定供給にもかかわってくる。重要なのは、政府が公共財としての種苗の役割を見失わず、農家を守る視点を持つことだ。