「無償化には意義もあるが、長期的にみると課題の方が大きい」と話す柴田准教授(大津市内)

「無償化には意義もあるが、長期的にみると課題の方が大きい」と話す柴田准教授(大津市内)

 10月から幼児教育・保育の無償化が始まる。対象となる子どもがいる保護者にとっては利用料の負担がなくなるが、待機児童がさらに増加するのではないか、などの懸念も残る。京都大人間・環境学研究科の柴田悠准教授に課題を聞いた。

■不利な家庭下支え

 無償化の一番の課題は、都市部で待機児童がさらに増えると予想されること。保護者が「無料で長い時間子どもを預けられる」と考え、幼稚園の利用希望者が減り、保育所の利用希望者が増えるのではないか。

 保育の長期的な効果を研究している。日本での保育効果の研究は、山口慎太郎東京大准教授の調査研究がほぼ唯一と言えるほどデータが乏しい。その研究によると、母親の学歴が高卒未満の家庭は、子どもが保育所に通っていると不適切な育児が予防されやすく、子どもが健全に社会的発達をする傾向があった。

 私の研究でも、社会経済的に不利な家庭の子どもが保育所に通うと、子どもが大人になったときに非正規雇用になりにくく、結婚しやすく、人付き合いが多くなりやすいことが分かってきた。

 社会経済的に不利だと、生活や子育てに余裕がなく、不適切な育児もなされやすい。そうした家庭に対して良質な保育を提供することが大事だ。待機児童にならずに無料で、質の確保された保育所に入れる環境を整える必要がある。

■発達に影響明らか

 待機児童が増えて子どもを保育所に詰め込むと、保育の質の低下が懸念される。幼児期の発達はその後の人生に大きく関わるため、極めて重要な問題だ。

 幼児教育や保育の質が子どもの発達に与える影響を国際比較した研究がある。職員(保育士・幼稚園教諭)1人当たりの子どもの数が多いなど質の低い保育所に通うと、子どもの発達に悪影響する可能性が高いことが明らかになった。ここで言う発達には、知能指数で測れる認知能力の発達だけでなく、意欲や協調性といった「非認知能力」の発達も含まれる。

 1人の職員が子どもを何人まで見てよいかという基準について、日本は0~2歳は比較的良いが、3~5歳は経済協力開発機構(OECD)加盟国中の19カ国の平均(3歳以上18人)よりはるかに悪い。保育所の3歳は20人、4~5歳は30人、幼稚園は35人で、19カ国で最悪のレベルだ。

 実際には自治体や保育所の判断でゆとりを持たせている。OECDの報告書によれば、3~5歳の職員配置の実際は、平均で15人とそんなに悪くない。しかし、無償化で国から要請を受けるなどして基準ぎりぎりまで詰め込む状況になる可能性がある。

■まず待機児童解消

 保育士をもっと多く配置すべきだが、そうするとますます保育士不足になる。まずは子どもの発達に悪影響を及ぼさないために、待機児童の解消に財源を充てるべきだ。

 財源は相続税などの資産税がふさわしい。いまは資産の格差が広がり、人生におけるチャンスや生まれたときの格差が広がっている。資産の格差を縮めて財源を得て、子育て支援をするのが基本だ。

 ただ、資産税は急激に上げると、資産家が資産を海外に移すリスクが高くなる。資産を移すコストより低いレベルで少しずつ上げ、足りない部分は消費税などで補うしかない。