緑と光、そして風。名勝天橋立(宮津市)は5月から輝き始める。「天と地の架け橋」と伝えられる美は時を超え、心を揺さぶる▼この白砂青松を楽しむ絶景を幾つご存じだろうか。右上がりに天に昇る龍(りゅう)を想像させる昇龍観、天から降臨する姿の飛龍観、眼下に見下ろす一字観、貝原益軒がたたえた益軒観。中でも、知られるのは雪舟観か▼室町時代の画僧雪舟は今年で生誕600年になる。雪舟観の基になった国宝「天橋立図」は、82歳以降の作とされ、海を俯瞰(ふかん)する大胆な構図で社寺のほか地形や山城を表す▼その制作の背景が近年の研究で分かってきた。雪舟の旅は「漂泊」ではなく、パトロンの守護大名・大内氏の命による「出張」だった。上洛ルートの要地となる丹後の地理情報を、詳しく描く使命があったらしい▼丹後へは晩年だけでなく、それ以前にも来ていた可能性も。天橋立図には、見逃してしまいそうな小橋まで名前入りで描き込まれており、「雪舟と丹後の人々との触れ合いや語らいの中から生み出された稀有(けう)な実景図」(山本英男・嵯峨美術短大教授)という▼今春の天橋立は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、寂しい光景が続いた。人と人が出会う懸け橋に―。雪舟の名画を残した、そんな交流の場に戻ることを待ち望みたい。