「隠棲(いんせい)の地」と聞くと、暗く寂しい山里を想像してしまう。京丹後市弥栄町味土野は山深い集落だが、この季節は陽光と野鳥のさえずりが訪れる人を迎えてくれる▼味土野は明智光秀の娘細川ガラシャが本能寺の変の後に幽閉された地。来年のNHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」の主人公が光秀だけに、ガラシャゆかりの地として観光整備も始まった。約50~60メートルある「大滝」に展望所と遊歩道が作られた▼ガラシャは古くから顕彰されており、昭和11(1936)年には石碑が建てられた。散策する人もちらほら。味土野で育ち現在も農作業に通う木下祐治さん(75)は「静かな山里ですが、ガラシャが注目されるのは喜ばしいことです」と話す▼関ケ原の戦いで石田三成が挙兵した際、大坂・細川邸にいたガラシャは人質になることを拒絶して死を選んだ。辞世の句<散りぬべき時知りてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ>は、味土野の案内板にも記されている▼丹後ではガラシャを主人公にした演劇や紙芝居、合唱曲が度々上演されてきた。居城があった宮津市内には祈りをささげる銅像も▼逆臣の娘となり、数奇な運命をたどる端緒となった丹後の地で敬愛されている。来年の大河では描かれないであろう光秀没後のガラシャの生涯に引かれる人は多い。