水田地帯で田植えが進み、青々とした色彩が広がってきた。今も昔も変わらない日本の風景に、心和む思いがする▼<腰の痛さよ この田の長さ 四月五月の 日の長さ>民謡にもうたわれた手植えの重労働は田植え機の登場で随分と軽減された。もしこの機械がなかったら稲作が今のような形で維持できていたか疑わしいほどだ▼作家の野坂昭如さんは生前、戦時中の飢えの体験から田んぼを借りてコメ作りを始めた。その実感から、田植え機は史上最大の発明である、という意味のことを雑誌に書いていた。同じ思いを持つ農業関係者は少なくあるまい▼歩行用田植え機が国内で発売されたのは1968年。以来、乗用になり、高速になり、今や衛星利用測位システム(GPS)を活用した自動運転の機種まである。まさに日進月歩である▼だが「農業技術を創った人たち」の著者西尾敏彦さんによれば、田植え機の特許・実用新案の出願は既に明治期に始まり、多くが農民発明家によるものだったという。裏返せば、現場にとってそれほど手植えからの解放が切実だったということだ▼種もみを田んぼに直接まく省力型の直播(ちょくはん)栽培も、まだ一部とはいえ年々増えている。変わらぬ水田風景の陰には多くの技術革新の努力がある。そんな歴史にも目を向けたい。