もしも眠っている間に、知らない場所に連れて行かれてしまったら? 目が覚め、親しげに声をかけてくる人がいるが、誰なのか分からない-▼認知症の人が目にしているのは、他の人に例えるとそんな世界だという。時間や場所、人との関係を含め、自分の置かれている状況を理解する力に支障が出るためで、「不安で仕方ない」のも無理はない▼心理学者の佐藤眞一大阪大教授の著書「認知症の人の心の中はどうなっているのか?」(光文社新書)の考察は、身につまされた。変わっていく肉親の姿に戸惑い、ついきつく当たってしまうと悩む人は他にも多いだろう▼近年、認知症の本人が苦しさや不安を発信し、「何も分からない人」という偏見は改められつつある。佐藤氏は、症状が進んでも話し相手の表情から嫌悪や喜びを読み取ることができると紹介している▼政府はきのう、全国の認知症人数が2018年推計で高齢者の7人に1人に上ると発表。25年は5人に1人との推計もあり、「予防」強化などで70代の発症率を6%減らす数値目標を初めて打ち出した▼運動や学習の支援策は進行を遅らせる可能性があるが、根本的な予防・治療法はないのが実情だ。認知症になっても本人らしく生きられる「ケアこそ最後の砦(とりで)」という佐藤氏の言葉は重い。