日本海を望む棚田での田植えは都市住民にとって格別のようだ。水ぬるむ初夏、京都府北端の半農半漁の静かな集落に、にぎやかな声が響いた▼京丹後市丹後町の「袖志の棚田」は約400枚の水田からなり農林水産省の「日本の棚田百選」に選ばれている。2枚の休耕田を起こして始めた棚田交流は今年で10回目。大学生や親子連れら約150人が泥の感触を楽しんだ▼袖志棚田保存会の平井貞雄会長(72)は「多くの人が関心を持ち訪れてくれるのは光栄の至り」と目を細める。棚田の農作業は手間が掛かるそうだ。小型の田植え機を操り不規則な形の田に苗を植える。手植えも駆使して隙間なく▼農水省の調査によると、棚田は2005年時点で全国に約5万4千カ所あった。うち京都府内は549カ所、滋賀県内は118カ所。前後に調査がないので比較できないが、過疎や高齢化で耕作放棄地が増えているという▼そこで超党派の棚田振興議員連盟が「棚田地域振興法案」を今国会に提出しようと調整している。観光や環境、文化的価値に着目。活性化の基本方針を国が決め省庁の枠を超えて支援する法案だ▼棚田や段々畑は「耕して天に至る」と形容される通り、日本人の勤勉さや土地への執着を物語る。都市住民の郷愁を誘う日本の原風景でもある。