どきっとする言葉だ。「女は、やさしい男が好きなくせに、男がやさしいと見くびるものである」―。簡単な言い回しにユーモアと鋭い洞察が同居する。田辺聖子さんが亡くなった▼人生や男女関係の機微を軽妙な筆致でつづり、恋愛小説の名手といわれた。作品数は膨大である。「人生の伴侶」となるような一冊や一文に出合えた人も多いのではないか▼古い紙面をひもとくと、「現代の作家」を紹介する1982年の記事に「東の佐藤愛子と並ぶ西の女傑」とある。今では不適切表現の「女傑」だが、社会状況がうかがえる▼芥川賞を受賞後、大衆・中間小説で活躍した。本人は気にしていないだろうが、文壇の男社会の中で評価が後回しになったのではないか。男はかしこい女が好きなくせに、女がかしこいと煙たがる―田辺さんにならい下手な惹句(じゃっく)を考えてみた▼大のファンだというスヌーピーの漫画はユーモアと哲学が同居し、どこか作風が通じる。そういえば彼も恋多き性格だ。うまくいっていないようだけど▼多様な性の在り方や「恋愛離れ」がいわれる昨今である。他者とのつながりを一から問い直す時代かもしれない。「ほんまに人生で大切なんはなあ、仲のええ人間とめぐりあう、ということだけなんやで」。田辺さんの言葉をかみしめたい。