1953年の「日章丸事件」はドラマチックに伝えられている。英国資本の石油施設を国有化したイランから、日本のタンカーが国際包囲網を突破して、初めて石油を積んで帰り、世界をあっと驚かせた▼イランの港では盛大に歓迎パーティーが開かれ、現地新聞も1面トップだ。しかし、帰りの海路には英国艦船の目が光る。交信を遮断し、ひそかに「虎口」を脱してアラビア海へ-▼出光興産の創業者、故出光佐三氏の評伝(高倉秀二著)を読むと波瀾(はらん)万丈だ。「虎口」とは曲がった形の要所をいい、敵の攻撃を受ける危険な所。ホルムズ海峡だ。その虎口で一昨日、日本と台湾のタンカー2隻が攻撃された▼安倍晋三首相がイランの最高指導者ハメネイ師と初めて会談した、その日の攻撃。米国は「イランの責任」と非難するが、証拠はない。緊張を高める狙いなら、ほかの勢力も思い浮かぼう▼親日のイランと、親しいトランプ米大統領の仲介役を、安倍氏が買うのはいいことだ。しかし、日章丸事件の突破のようにはいくまい。米国の制裁包囲網から抜けて、イラン原油を輸入することはないだろうから▼世界は危険な虎口に近づいているようだ。ここはトランプ氏に自ら招いた危機をしずめるよう、親友なら直言してほしい。安倍氏に求めたい突破だ。