「キノコは自然界で生命をつなぐ欠かせぬ役割を果たしている」。幅広い人たちから「キノコ博士」と親しまれた故吉見昭一さんは生前にそんな言葉を残した▼京都市内の小学校長などを歴任した吉見さんは自然観察の実践学習に力を入れ、多数の著作を残した。なかでも共著「京都のキノコ図鑑」(1986年刊)は当時の小中学生や愛好家の多くにとって入門書となった▼京都御苑(上京区)で76年から始めた観察会は今も教え子や共感した人たちが受け継いでいる。吉見さんが生前に開いた回数と同じ193回を、今月9日に数えた▼当日の参加者約80人は、老木の根元で子孫を残そうと胞子を飛ばすヤナギマツタケなどを観察した。観察会の世話役を務める佐野修治さん(68)は「枯れた木や落ち葉の成分を分解して、土に戻している」と語った▼キノコが健康にした土で次の世代の草木や虫が育つ。成長した虫や木の実、キノコを食べた鳥獣が残した糞(ふん)は、栄養分となって土を肥やす…。壮大な宇宙を思わせるような生命の循環に、先人は畏怖(いふ)の念を抱いたのだろう。すべての生き物には神仏が宿ると信じた▼今月下旬から梅雨の終わりにかけて、年間で最も多くの種類が観察できるという。身近な鎮守の森や寺の庭、里山で育つキノコに目を向けたい。