誰しもいつか第一線を退く時を迎える。とりわけプロスポーツの世界では引き際が難しい。燃え尽きるまで続けるか、華のあるうちに惜しまれて身を引くか▼大相撲初場所に背水の陣で臨んだ横綱稀勢の里関が引退を決めた。馬力あふれる真っ向勝負で観客を魅了したが、32歳の肉体のもろさに「名誉の負傷」が加わり、力強さが影を潜めて初日から3連敗。残念とはいえ致し方あるまい▼横綱は相撲の強さに加え、最高位の品格が欠かせない。威厳を示せなくなれば、選択肢は引退しかない。現役への執念や未練をかなぐり捨て、決断しなければならない▼引き際はさまざまだ。北の湖関は晩年、満身創痍(そうい)で休場を重ねつつも両国国技館のこけら落としを待った。佐田の山関は連続優勝の翌場所に潔く去った。不祥事で不本意な退場もあった▼外国人力士の活躍で土俵の国際化が進む中、稀勢の里関は19年ぶりの「和製横綱」として期待された。それゆえ大声援に応えたいとのプレッシャーもあったに違いない▼「もうやり切った」「横綱として皆さまの期待に沿えないのは悔いが残るが、私の土俵人生に一片の悔いもない」。時に涙ぐみながらの引退会見だった。多くのファンが長らく待ち望んだ復活劇こそ見られなかったものの、お疲れさまと声を掛けたい。