「おぉ」と、驚きの声が上がったそうだ。豊かな乳房とどっしりした腰、そしてくびれのある女性の胴体が表現されていた。10年くらい前に東近江市の相谷熊原遺跡で、国内最古級の土偶が出た瞬間である▼縄文時代草創期後半、約1万3千年前のものとみられる。昨年は東京の展覧会に出品され、芸術性の高いとされる曲線が来場者を魅了した▼先月、北海道・礼文島の遺跡から出土した縄文人のゲノム(全遺伝情報)を解析したと、国立科学博物館の研究チームが発表した。頭蓋骨も参考にして復元された女性の顔は、?や顎のラインがくっきりしていて、たくましかった▼こちらは3500~3800年前の縄文人で、ゲノム解析によると、目は茶色。毛が縮れていたようだ。北極圏に住む人のように高脂肪食に対応できて、酒も強かったらしい。土偶による縄文人の印象とは随分異なる▼遺伝子を調べると、情報は増える。がん治療に有効な薬が見つかるので、ゲノム検査は今月から公的医療保険の対象となった。一方で、染色体の異常を探る出生前診断には、命の選別につながらないかと異論が出た▼技術の進歩に伴う情報によって、ものの見方は変わっていく。それをどう受け止めていくかは難しい問題だ。できるなら、土偶の息吹も忘れずにいたい。