数ある媒体の中でラジオは不思議な存在だ。マスメディアでありながら、語り手と聴き手の間に特別な空気が流れ、顔を知らずとも身内のような感覚になることもある▼知るべきことは全部ラジオから教わった―。英のバンド「クイーン」の名曲「ラジオ・ガ・ガ」の一節だ。テレビやネットに押され苦戦してはいるが、強い愛着を持つ人は今も多い▼FM京都の看板番組でDJを25年8カ月務めた佐藤弘樹さんが先月、62歳で亡くなった。柔らかい低音ボイス、時事問題や文化論、ワンポイント英会話の洒脱(しゃだつ)なトークやユーモアが幅広い世代に愛された▼「京都の朝の顔」の突然の訃報に惜別の声が途切れることなく同局に届く。日常にスパイスをきかせるだけでなく、人生の転機や辛苦の日々も穏やかな語りに励まされた人がいかに多かったか▼「京都に不慣れで知人もいない時、佐藤さんの声だけが私と家族の存在と決断を肯定してくれた。京都にいなさい、気兼ねなんておよしなさいと言ってくれている気がした」。8年前の原発事故後、福島県から避難してきた綾部市の女性は感謝をつづった▼円熟味を増す活躍も「聴き手の想像に寄りかかって助けてもらっているだけ」と謙虚だった。オンエアマイクの前から聴き手の人生に伴走した四半世紀だった。