1963年に全米ヒットチャート首位に輝いた坂本九さんの「上を向いて歩こう」を作詞した永六輔さんはヒットに複雑な感情を抱いていたようだ。自著「上を向いて歌おう」の対談で一端がうかがえる▼原題は米国で「SUKIYAKI」と改められた。聞き手が改題に触れて<外国人の「フジヤマ」「ゲイシャ」という日本観と同列>と水を向けると、言葉少なに<同感ですね>と応じている▼この人も似たような日本観を持っていたか。米国の女性タレント、キム・カーダシアンさんが自らの矯正下着ブランドに「キモノ」と名付けようとして批判を浴び撤回に追い込まれた▼着物産業が集積する京都市の門川大作市長も「着物は日本の伝統的な民族衣装であり文化」とのメッセージを出した。外国人が日本文化に目を向けるのは喜ばしいが、イメージ優先で安易に「キモノ」を用いようと彼女が考えたとしたのならいただけない▼とはいえ日本人が日常的に着物を身にまとう機会は大幅に減った。和装産業も先細りが続いている。海外に向けて伝統を説くほどに私たちは着物文化に思いを致してきたのかと自問する▼永さんは生前、天皇に和服をお召しいただく運動を進めたこともある。辛口で鳴らした永さんなら、今回の騒動をどう切ってみせるだろう。