英国中部の都市・サンダーランドで青果商が現行犯逮捕されたのは約20年前のことだ。バナナを英伝統の重さの単位「ポンド」で売ったのが「度量衡法違反」とされた▼欧州連合(EU)域内で生鮮品を販売する場合はキログラムで価格表示しなければならないが、青果商はこの規則を拒否し続けた。青果商はEUに挑む「殉教者」とされ、EU反対派は自分たちの運動のシンボルに祭り上げた(トム・リード「『ヨーロッパ合衆国』の正体」)▼英国でEUへの懐疑が根強いことを物語る事件だった。そうした空気が今また膨らんでいる。新首相に就任したジョンソン氏は10月末のEU離脱を改めて強調し、主要閣僚を離脱強硬派で固めた▼脱退する条件を決められずに「合意なき離脱」となれば、関税や国境での検査が復活し、物流や生産の大混乱は必至だ。着地点が見えぬままの政治決断は英国への信頼も揺るがしかねない▼サンダーランドには日産の工場が進出し、地域雇用を支えている。EU加盟国で生産するからこそ輸出に関税がかからず、面倒な手続きも不要だ。そんな有利な立場を捨て、英国は国の将来像をどのように描くつもりか▼世論は離脱派と残留派が拮抗(きっこう)しているという。首相が「殉教者」になったとしても、国内の分断は修復されまい。