投手の肘の故障といえば、多くの場合、側副靭帯(じんたい)の損傷を指す。上腕と前腕をつなぐ伸縮性バンドのようなものだ。修復する唯一の方法は、体の他の部分の腱(けん)を移植する「トミー・ジョン手術」である▼米国のジャーナリスト、J・パッサン氏が著書「豪腕」で詳細にルポしている。全身麻酔の下、医師が患者の関節などを次々と切開して適切な腱を探り出す描写が生々しい。遺体から提供されたものを使うこともある▼同手術を受ける選手が米国で急増しているという。プロ選手だけでなく、10代のアマチュア選手にも肘損傷が「伝染病的」に広がる。原因は早くからの「投げすぎ」と同書は伝える▼米国では少年野球にプロのスカウトの目が光る。有望株にはお金もちらつくから、PRでつい多く投げてしまう。大リーグのドラフト候補に故障経験者が並ぶ事態である▼同書は日本にも一章を割く。渡米した日本投手が次々と手術を受けたからだ。熱心な野球ファンの存在を讃える一方、連投を強いる高校野球の精神主義には疑問を呈している▼「手術は、もう一度、壊せるように腕を修復しているようなもの。この電球は必ず切れます」。パッサン氏が紹介する医師の言葉だ。夏の甲子園の出場者にも手術経験者がいるらしい。再発はないのか、心配になる。