イラスト・冨田望由

イラスト・冨田望由

<いきものたちのりくつ 中田兼介>

 動物が主役の映画はいろいろあります。「ファインディング・ニモ」という作品は、奪われた息子を助けに冒険の旅にでるクマノミのお父さんが主人公です。映画の冒頭、彼は妻を亡くしており、息子は大切な唯一の家族というわけです。

 ところが生物学的に見ると、この作品には格好の突っ込みどころがあります。一夫一妻で暮らすクマノミは、メスが死ぬと、残されたオスの体の中身が作り変わり、精子を作るのをやめ、卵を作るようになります。つまり、メスに性転換するのです。ということは、お父さんは旅の途中でお母さんにならなければおかしい。

 クマノミでは1番体の大きい個体がメス、2番目がオスとして繁殖しますが、このペアに加えて、まだオスにもメスにもなっていない子どものクマノミが集団で同居しています。この状態でメスが死ぬと、2番目に体の大きかったオスが1番に繰り上がり、最も体の大きい子どもが2番目となります。そして、この子が大人の魚として成熟します。

 さて、魚は普通、メスの体が大きいほど、たくさんの卵をおなかに抱えることができ、それだけ多くの子を残せます。ということは、魚が2匹いたとき、体の大きな方がメス役で小さな方がオス役を担うと、役割が逆のときと比べて、よりたくさんの子を残すことができます。クマノミの群れでメスが死んだとき、このことを実現しようとすれば、残されたオスがメスに性転換し、子はオスとして成熟すればよいわけです。これが生物学的に正しい在り方なのですが、映画に対してそんなことをいうのはやぼかもしれません。私もこの作品を見ていた時は、自分の仕事を忘れてお父さんの息子を思う気持ちに感動していたものでした。(京都女子大教授)

◆中田兼介 なかた・けんすけ 1967年大阪府生まれ。京都大大学院で博士号取得。著書に「クモのイト」「びっくり!おどろき!動物まるごと大図鑑」など。「図解 なんかへんな生きもの」を監修。