自身の生活が脅かされる状況に不安を募らせる谷口政春さん(4月14日、京都市左京区岩倉)

自身の生活が脅かされる状況に不安を募らせる谷口政春さん(4月14日、京都市左京区岩倉)

 宇治市の介護療養型医療施設は、新型コロナウイルスの感染防止のため3月下旬から面会禁止を続けていた。病棟の入り口で新保博さん(72)=同市=は、認知症の妻ますゑさん(71)の衣服をスタッフから受け取った。「食事を完食した」とますゑさんの様子を聞き、ほっとしたが、「私を忘れていないか」と不安は消えなかった。
 以前は毎日ベッドの横に座り、家族のことなどを1時間ほど話し掛けていた。ますゑさんは新保さんに顔を向け、笑顔のような表情を見せていたという。
 「次に会えるのはいつだろう。家族の記憶をどこまで残しておいてくれるだろうか」
 京都府内の緊急事態宣言解除から間もない今月22日、わずか数分ではあったがガラス越しにますゑさんと再会した。1カ月半ぶりだった。「久しぶり」と声を掛けたものの、妻とは視線が合わなかった。
 病院や介護施設の面会禁止が長期化している。入院・入所している人たちの多くは高齢で基礎疾患があり、感染すれば重症化しやすい。緊急事態宣言の解除後も、「コロナ前」のような入室は難しい。

 「ヘルパーが来てくれなくなるんじゃないか。お先真っ暗だ」。感染者数が膨らんだ4月。10年前に認知症になり、自宅で一人暮らしする谷口政春さん(95)=京都市左京区=を訪ねると、谷口さんは不安を漏らした。
 食事や入浴の見守りなど、谷口さんの日常生活はヘルパー4人に支えられている。しかし、ヘルパーやその周辺の人が感染すれば訪問は途絶えてしまう。
 認知症の人の孤立が進む。日帰りでは帰れない遠方から家族が週末などに通い、身の回りの世話をする「遠距離介護」を受けている人も多い。しかし、府県をまたいだ移動の自粛で介護が困難になり、「認知症の人と家族の会」(上京区)に家族からの相談が相次いだ。

 外出自粛で通院をためらい、症状の進行を緩やかにするための医療が滞る人もいる。
 府立洛南病院(宇治市)は受診を制限していないが、定期的な診察が必要な認知症の人の半数以上が来院していない。同病院の中村陽子医師は「なぜいつも通りの生活ができないか、理解できない人もいる。不安や混乱が増すことで、認知機能が低下したり、幻覚や不眠などの周辺症状が悪化したりする恐れがある」と危ぶむ。

 認知症の疑いがある人らの自宅を訪ね、早期に適切な医療や介護につなぐ「認知症初期集中支援チーム」に所属し、伏見区で活動する介護福祉士の増本敬子さん(63)は「不安から外を出歩いて事故に遭ったり、急に食事を取れなくなったり、ささいなきっかけで命に関わることもあり得る。認知症は緊急性が低いと切り捨てられがちだが、決してそうではない」と訴える。
 自らに降りかかる新型コロナの脅威にとらわれ、孤立している人たちを視界から消していないだろうか。誰もがその立場になりうるのに、人ごととしていないだろうか。