京の訪問先を去ろうとすると、「ちょっとお茶漬けでも」と引き留められる。履きかけの靴をまた脱ぐわけにもいかず、「また今度」と断るが、「いっぺん食べたろ」となるのが大阪の人らしい▼上方落語「京の茶漬け」である。一方、大阪の食べ物がらみで京の人が一度してみたいのは、串カツの「ソース2度漬け」ではないか。専門店に張ってある「禁止」の札が、余計に食欲をそそる▼これに異変が起きた。客の共用ソース容器が一部の店から姿を消した。これでは、2度漬けはおろか、揚げたてをドボンと浸すことすらなくなる。「2度漬けは不衛生」と初心者を諭せない▼新型コロナウイルスの感染を防止するためで、代わりにソースの入ったボトルを使う。飛沫(ひまつ)が入らず、より衛生的と評価されるが、「雰囲気が出ない」と残念がる人もいる▼緊急事態宣言が全面解除となっても、社会経済活動の制限緩和は段階的に進められる。その間、人との間隔を空けるといった「新たな日常」は定着していく▼ボトルの登場もその一つで、「2度漬け禁止」の札はやがてなくなるかもしれない。「ちょっとお茶漬けでも」との場面も「密接」なので、ありえなくなりそうだが、仕方ない。新型コロナが親しんだ生活習慣の断絶をもたらすのなら、寂しい限りだ。