耕された畑に水をまく鈴木貴美江さん(9日、京都市左京区岩倉)

 2月下旬、連日続く各地のイベント自粛の報道をテレビで見ていた鈴木貴美江さん(81)=京都市左京区=は夜に眠れなくなり、明け方まで「これからどうなるの?」と同じ質問を繰り返すようになった。それまで一人でバスに乗って通院できたのに、敬老乗車券や診察券を自分で用意することもできなくなった。
 長女の佑三古さん(55)は「10日間ほどで認知症に伴う症状が急に進んだ」と感じた。本人や家族、住民が定期的に楽しいひとときを過ごす「認知症カフェ」などが中止になり、貴美江さんは外出する機会がなくなった。楽しんでいたことができず、気分の落ち込みが激しかったという。
 「3密」(密閉・密集・密接)を避けるため、京都府内の多くのカフェで開催見送りが続く。
 「家に閉じこもり、人と会う刺激がなくなると、認知症の人は意欲や積極性を失い、症状も悪化することがある」。「コロナ前」は長岡京市で月2回カフェを開催していた医師の野々下靖子さん(85)は懸念する。気を抜く機会がなくなる家族の負担も気に掛ける。

認知症カフェの利用者に届けられた手作りのマスク

 カフェ運営に関わる人たちは、「今できることで人とのつながりを保ってもらえたら」と、代わりの手だてを模索した。
 京都市左京区で「認知症カフェ いきいき」を運営するヘルパーらは3月、2人だけで自宅を訪れて会話を楽しむ「訪問型カフェ」を試みた。しかし翌月は感染がさらに広がり、訪問も断念。今度はマスクを手作りして贈ることを企画した。メッセージや飴を同封し、本人と家族の計13人分を今月上旬に郵送した。
 同区の市岩倉地域包括支援センターなど「にこにこ・オレンジカフェ・いわくら」の実行委員会は、「3密にならずに活動できる」として、カフェのような交流を目的とする農園の開設を早めた。
 5月上旬、この農園に貴美江さんの姿があった。カフェの運営メンバーら十数人と一緒に、腐葉土を混ぜ込んだ畑に水をまいた。「土いじりをしたことはなかったけど、すごく爽快ね」と目を細めた。夏にはキュウリやトマトが実る。

 認知症の人自身が積極的に外に出て培った人とのつながりは、外出自粛を耐える力になっている。
 伊藤俊彦さん(76)=宇治市=は妻の元子さん(74)と一緒に、カフェの参加者や診断を受けて間もない人や家族からの相談に応じていた。取り組みを通じて親しくなった人たちと、つらさを分かち合った。
 「この先に楽しいことが待っているはず。今はお互いに我慢しましょう」。伊藤さん夫妻は同じ境遇の人たちに電話を掛け、近況を伝え合った。電話口から「心強い」「励まされた」と声が返ってきた。
 京都府の緊急事態宣言は解除されたが、状況は厳しいままだ。俊彦さんは今後を見据える。「今は連絡先を知っている人に限られるが、さらに呼び掛け、テレビ電話など顔を見ながら話をできる仕組みづくりも考えたい」