中国の全国人民代表大会(全人代=国会)が、香港への国家安全法制の導入を決めた。近く、関連法が制定される見通しだ。

 香港には、法律を定める立法会(議会)がある。その頭越しに法制度を導入することになる。

 1997年、香港が英国から中国に返還される際、高度な自治を保障した「一国二制度」を、ないがしろにする行為である。

 香港では昨年、「逃亡犯条例」改正案への反発から住民の抗議活動が激しくなった。これが再燃するのは、間違いないだろう。

 国家安全法制は、国家の分裂につながる活動や、政権転覆、テロ行為、外部の勢力による内政干渉を禁止する内容を含んでいる。

 中国政府の指令を受けて、香港政府が2003年に制定を目指したが、強い反発を受けて棚上げになった経緯がある。

 そこで今回は、香港政府や立法会を通さず、導入を図ることにしたのではないか。

 だが、香港の憲法に当たる基本法は、原則として全人代に香港の法律を定める権限を、与えてはいないとされている。

 香港の林鄭月娥行政長官は、国家の安全についての立法は中央の権利だとしたうえで、合法的な手段ならデモなど言論の自由は保障されると強調した。

 ところが全人代では、香港の治安に関する審理から外国籍の裁判官を排除することや、香港警察に治安維持のための機関を新設することが提案されていたという。

 これでは、中国政府の方針に反する言論などを、取り締まることのできる態勢が、強化されるだけではないか。

 昨年行われた香港の区議選挙では、民主派が8割を超える議席を取って、親中派は惨敗した。

 今年9月には立法会選挙が予定されており、ここでも民主派が過半数を占めることを、中国政府は恐れているとみられる。

 国家安全法制の適用によって、民主派の立候補を妨げるような事態が起きれば、香港の自治は完全に崩壊してしまうだろう。

 米国は、高度な自治が維持されていることを条件に、返還後の香港にも、関税やビザ(査証)の発給などで、中国本土より優遇する措置を続けてきた。

 自治を脅かす国家安全法制が導入されては、これを見直さざるを得ない。国際社会も、米国の対応を支持するはずである。

 中国政府は導入を再考し、翻意すべきだ。