乗馬をたしなむ人はご承知だろう。馬の背の鞍から腹の両脇に下げる皮具を「障泥(あおり)」と呼ぶ。文字通り泥よけだが、ここを蹴って馬を急がせることから勢いをつけ動かす、けしかけるという意味ともつながっているようだ▼台風にあおられた爪痕と並び、人の起こすあおりの災厄も深刻だ。常磐自動車道でのあおり運転・殴打事件後も続き、並走してきてエアガンで撃たれる被害まで起きた。考えるだけでぞっとする▼堺市で昨年7月、バイクの男子大学生があおり運転の車に追突され、死亡した事件で、11日の大阪高裁判決は一審に続いて加害者に殺人罪が成立するとした。走る鉄塊は凶器であり、ハンドルを操る者は威嚇や危険運転がもたらす恐怖と重大な結果を自覚しなければなるまい▼あおりの問題は路上にとどまらない。インターネットなどでデマを流したり、憎悪を拡散したりする行為が横行している。現代人の心のひずみにも思える▼共通するのは、車やネットという個の人間を超える力を簡単に手にできるということだろう。互いの顔が見えない車内空間や匿名性の高いアクセスによって、相手の痛みを想像しにくくなっている▼どうブレーキをかけるか、社会全体で安全装置を考える必要がある。しっかり手綱を握り、暴走を止めねばならない。