新型コロナウイルスの影響による休校長期化を受けて政府が是非を検討している9月入学制は、来年の導入を見送る方向となった。

 自民、公明両党が見送りを求める提言をまとめたほか、緊急事態宣言の解除による学校再開の動きもあり、消極論が広がった。

 9月入学制はグローバル対応を背景にかねて取りざたされてきた。

 だが、社会を大きく変える問題だけに拙速な導入は避けなくてはならない。

 コロナ対策に追われる中で議論を進めるのは、無理があるといえるのではないか。

 そもそも学習の遅れをいかに取り戻すかという問題と、9月入学は次元の違う話である。

 政府が検討に着手したのは4月下旬だった。

 9月入学制は一部の知事の積極論に押される形で、安倍晋三首相が有力な選択肢とした。

 官邸と関係省庁は課題を整理し、文部科学省は来年9月の一斉実施と、5年かける段階実施の2案を示した。

 一斉実施案は17カ月分の子どもが新1年生として小学校に入学し、人数は通常の1・4倍となる。

 段階実施案も、現行制度であれば1学年下の子どもの一部が同学年になる。

 増員した学年は受験や就職の競争が激しくなり、教員や教室の確保も必要になるなど、子どもへの影響も大きくなることが心配される。

 さらに文科省の試算では、移行経費は少なくとも5兆円に上った。子どもを持つ家庭への負担も2兆5千億円増えるとしている。

 日本教育学会も、学力格差を是正する効果にも疑問があると主張している。

 それに加えて全国市長会からは市区長の約8割が慎重か反対とする調査結果が示された。

 入学時期を9月にずらすことよりも、学習の遅れを少しでも解消するよう具体策に取り組む方が良いのではないか。

 文科省は、地域の感染状況に応じて公立小中学校に教員3100人を追加することを決めた。

 現場の実情に応じて、さらに教員を増やすなど、きめ細かい対応を求めたい。

 受験生への配慮も求められる。国立大学協会は推薦型などの入試の繰り下げを検討している。

 再び感染拡大した場合に備えて、オンライン教育を充実させることも重要だ。

 休校が長引き、受験生や保護者からは待望論を含めてさまざまな声が上がっている。

 政府や各自治体は、そうした不安にしっかり向き合い、「学び」の保障のために、やれることを尽くしてほしい。

 海外で主流の9月入学に移行すれば留学などでメリットがあるとの意見は根強い。

 とはいえ、まず今の子どもたちへの対応を急ぐべきだ。

 その上で国民的議論を丁寧に積み上げていくことが欠かせない。