ザビーネ・ヘラー「無題」 2001年 滋賀県立陶芸の森創作研修館にて制作 撮影=杉本賢正

<ミュージアムのちから コロナ禍に考える>

 陶芸の森(滋賀県甲賀市)の専門学芸員鈎(まがり)真一さんはいつもは館内で仕事をするが、来館者の案内などで外に出て野外展示作品を見た時、はっとすることがあるという。館内で同じ作家の作品を見るより、のびのびと開放的に見えるからだ。「内と外では全然違う。館内展示が窮屈に思えるほど。そんな見方があることに私自身も初めて気づいた」。

 鈎さんの好きな作品は、ドイツの作家ザビーネ・ヘラーの「無題」だ。信楽を一望できる丘の頂に置かれている。膝を折って座る女性の姿は大きくはないが、湿り気のあるレンガを使い、独特の量感がある。季節によってその表情は変わるという。日の当たり方で、朝と夕方でも印象は違う。遠くを見つめるまなざしが信楽の山並みに調和する。

 現在のように通常の外出がしにくい時でも、散歩のできる環境があるなら、身近なパブリックアートに触れてみてはと鈎さんは提案する。例えば公園の彫刻や造形物にも形の面白さ、作り手のこだわりがある。さらによく見れば時間や季節で表情が変わることに気づく。

 「見通しの立たない生活でストレスを抱えた時、歩いて身近な造形物に触れ、新鮮な気分になれたとしたら、それが芸術の力だと思う」と鈎さんは話す。「通常と違う時間の中で、見えていなかったものに気づく。その発見が、日常に戻った時、新たな気持ちでスタートするきっかけになる」。

 陶芸の森は作家が滞在して創作活動を行うレジデンス事業を行っている。内外の作家が、大型作品に適した陶土、高い技術や豊かな歴史にひかれて信楽を訪れる。しかめっ面の女の子を描いた作品で知られる現代美術家の奈良美智も、同館に滞在して陶芸に取り組んだ。

リサ・ラーソン(デザイン)/青木寿美子(絵付) 「生命の樹」 2015年 撮影=杉本賢正

 スウェーデンの作家で、世界にファンを持つリサ・ラーソンは、訪れたことはないものの信楽という土地に興味を持ち、作品デザインを提供し、地元作家の協力でモニュメント「生命の樹」が生まれた。

 レジデンス事業で滞在した作家の作品は定期的に紹介される。いずれも斬新で、他にない感覚に富む。世界の現代陶芸の潮流が分かるため、ミュージアム関係者の関心も高く、館蔵品は国内外の展覧会への出品実績も多い。

 それでも、観光地でもあるためか、展示作品は全て信楽のやきものだと思う人もいる。来館者に館のコレクションや事業を伝え、特に、野外展示を通じて作品の魅力をどう発信するかが課題だと鈎さんは考えている。

 

 滋賀県立陶芸の森 国内外の現代陶芸、滋賀県ゆかりのやきもの、クラフトと陶磁デザインを収蔵の柱とする。北大路魯山人「書 樂水樂山」など、作家と地元の人との交流を示す作品もある。信楽のランドマーク的な存在のため、上皇ご夫妻をはじめ、各界の著名人、芸術家を迎えてきた。鈎さんの考えるキャッチフレーズは「<やきもの×アート×自然>信楽から世界へ」。臨時休館中。甲賀市信楽町勅旨。0748(83)0909。