外出自粛が解除されても、外出させてもらえない人たちがいる。年数回の外出で、人生のほとんどを過ごす人たちにとって、ネットは社会とつながる命綱だが、ケアする側の都合で著しく制限されている。兵庫県や東京都などで地域生活を送る障害者らでつくる「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」(事務局・京都市南区)がこのほど、新型コロナウイルス対策で、病院の面会が制限される中、全国の国立病院機構「筋ジス病棟」のインターネット環境の向上を求める緊急要望書を、厚生労働相に送った。

全国に26カ所ある「筋ジス病棟」

 全国26カ所の「筋ジス病棟」には、筋肉が徐々に動かなくなる筋ジストロフィーなど神経難病の患者ら約1800人が暮らす。たん吸引など全介助が必要で、人工呼吸器を使う人も発語などコミュニケーションに障害がある人も多数を占める。10年以上入院している人が4割以上で、20年、30年と人生のほとんどをベッドで過ごす人も多い。

 同プロジェクトは、地域移行を目指す障害者運動からも取りこぼされてきた、筋ジス病棟で暮らす人たちを支援しようと、京都市で2018年に開かれたシンポジウムを機に立ち上がった。障害のあるメンバーが全国の筋ジス病棟を訪問するなどし、実態調査と支援を重ねている。

 緊急要望書は、筋ジス病棟によっては、病院側が手足の不自由な入所者を車イスに移乗して共有パソコンの部屋まで連れていかなかったり、看護師らがベッド上でパソコンやマウスなど周辺機器のセットをしなかったり、インターネット環境があっても介助を十分に受けられていない、と指摘する。

 「神経筋疾患の障害を抱える人はミリ単位の体位調整が必要ですが、忙しく立ち回る看護師に伝えることは非常に困難です。結果、外部との交流を制限され、365日24時間、毎日をベッド上で過ごし続ける人が現にいるのです。人としての当たり前の権利が保障されていません」と要望した上で、個々の障害者の身体状況に合わせた適切な意思伝達装置、通信機器、周辺機器を利用できる体制づくりや、遠隔ミーティング手段や通信中のプライバシー確保を求めている。

 同プロジェクトによると、新型コロナウイルス対策で、ほとんどの筋ジス病棟で面会が制限され、家族や支援者の立ち入りさえ許可されなくなったという。メンバーが連絡を取ったところ、全国の複数の病院に入所している筋ジス患者らから、「困っている」との声が寄せられた。

筋ジス病棟を訪問する大藪さん

 プロジェクトメンバーで、脊髄性筋萎縮症(SMA)の大藪光俊さん(26)=京都府向日市=は、筋ジス病棟がある国立病院機構宇多野病院(京都市右京区)に隣接する鳴滝総合支援学校に通った。同校は宇多野病院で長期療養する筋ジスの児童生徒らを対象とする病弱養護学校だった歴史があり、級友たちが今も筋ジス病棟に暮らすことから、大藪さんは車イスで市バスや電車を乗り継ぎ、支援や聞き取りを続けている。

 「自分はたまたま在宅生活を送り、大学にも通い海外留学もしたけれど、友達たちは社会から隔離されたまま。それがずっと、心にある」と、大藪さんは語る。大藪さんはヘルパーの介助を受けて1人暮らしを送っている。「この状況下ではインターネットを利用したオンラインのやりとりしか手段はありません。病棟の外の世界ではインターネットを利用した遠隔コミュニケーションが進められています。筋ジス病棟でも、同じような機会の保障がされるべき」と、大藪さんは訴える。

 「そもそも新型コロナウイルス禍がなくても、ネットは入所者にとって数少ない外部と連絡をとる手段でした。人は誰しも外の世界の誰かとつながって、動揺し、変化し、成長し、葛藤し、生きていくことができるのではないでしょうか。遠隔コミュニケーション手段のアクセス権利は、筋ジス病棟においては他者とつながる権利に等しいのです」

筋ジス病棟に入院している人たちをネットでつないで行われたシンポジウム(2018年12月、京都市)